100円稼ぐのに4554円のコストがかかる“超赤字ローカル線”へ

 路線バスで移動した滝川駅は、新十津川駅と比べ物にならないほど立派だった。ここから特急列車に乗り、札沼線を“上回る”JR北海道ワースト1のローカル線・留萌本線を目指す。同線の末端区間に当たる留萌-増毛間は輸送密度がたったの1日39人/キロ。100円の運賃収入を得るのに経費が4554円もかかっているという。沿線で土砂崩れの恐れもあることから、ついにJR北海道もさじを投げ、2015年夏に沿線自治体へ2016年度中の廃線を申し入れた。

 記者が訪れたのはその1カ月ほど後のこと。先ほどの札沼線の混雑ぶりからある程度察しがついていたものの、留萌本線の始発駅・深川駅で見たのはこれまた満員御礼の列車だった。

 車両はキハ40系ではなく、民営化の直前に国鉄からの“置き土産”として投入されたキハ54系。ステンレス車体なのでいくぶん新しくは見えるが、北海道向けということもありやはり冷房は搭載されていない。2両連結されていたものの、「後ろの車両は回送扱いなので乗車できません」とアナウンスが入る。通路まで立ち客でギッシリなので、ドアで締め切られてガラガラの後部車両を皆、恨めしそうに見る。

 11時8分、列車は深川駅を出た。札沼線と同様、乗っている人のほとんどが鉄道ファンか旅行客のようだ。記者が立っている場所のすぐ近くの座席に座っていた初老の夫婦は、食い入るように増毛の観光パンフレットに見入っている。終点まで座席にはありつけそうにないな……と観念した。国鉄時代に造られた北海道向けの車両は冬季の保温性を重視して、窓が小さめ。立っている状態の目線の位置では、外の景色はあまりよく見えないのが残念だ。

留萌本線の車両はステンレス車体のキハ54系。
留萌本線の車両はステンレス車体のキハ54系。
車内はこれまた大混雑。明らかに旅人が多い
車内はこれまた大混雑。明らかに旅人が多い

 しばらく走ると、南側に真新しい高速道路が並走し始めた。2006年に開通した「深川留萌自動車道」で、通行料金は無料。こうした高規格道路の整備が進んだことが、ローカル線がさらなる苦境に立たされている一因でもある。

 山間部を抜け、12時4分に留萌駅に到着。ここで後ろの回送車両を切り離すため、10分停車する。それなりに降りる人がいたが、乗ってくる人も同じくらいいて、混雑具合は変わらず。JR北海道のワースト路線とは想像がつかないほどの盛況ぶりだ。もっとも、廃線が報じられたからこそなのだろうが。

 発車前に、運転士のところにスタフが届けられた。札沼線と同様、ここから先は行き違いできない一本道。この列車が増毛駅で折り返して留萌駅へ戻るまで、他の列車は留萌駅から先に進むことはできない。

 深川駅からずっと山間部を走ってきたが、留萌駅からは一転して日本海沿いを走る。景色を眺めながら、20年ほど前の夏にこの路線に乗ったとき、「浜中海水浴場」という臨時駅に停車したことを思い出した。ホームはなく、列車は何もないところに停車。すると待機していたJRの係員がタラップのような階段をドアのところに設置するという不思議な駅だった。停車していたのは1989年から1995年までだったそうで、意欲的なアイデアを盛んに取り入れた民営化初期ならではの取り組みだったのだろう。

礼受駅に停車すると、ホームから日本海がきれいに望めた。右側に写っている駅舎は古い貨車を改造したもの。
礼受駅に停車すると、ホームから日本海がきれいに望めた。右側に写っている駅舎は古い貨車を改造したもの。
1994年に撮影した「浜中海水浴場臨時駅」の様子。タラップのような階段を据え付けている(フィルムをスキャンしたため、画質が悪いのはご容赦いただきたい)
1994年に撮影した「浜中海水浴場臨時駅」の様子。タラップのような階段を据え付けている(フィルムをスキャンしたため、画質が悪いのはご容赦いただきたい)

 海沿いの景色は抜群に良いのだが、列車のスピードが上がらず、だんだんイライラしてきた。この区間は地盤が弱く、たびたび土砂崩れや雪崩に見舞われており、徐行措置が取られているのだ。普段の乗客の少なさもさることながら、抜本的な安全対策には数十億円かかることも、廃線という判断へと傾いた原因のようだ。

 12時44分、終着の増毛駅に着いた。驚くことに、ホームには折り返しの列車に乗る長い列ができている。そればかりか、駅舎には観光客があふれ、線路の隣の空き地にはたくさんのクルマが停められていた。増毛駅とその周辺は高倉健主演で1981年に公開された映画「駅 STATION」の舞台。以前から観光スポットではあったが、ここまでの人混みというのは、やはり廃止報道が影響しているのだろう。

 周辺の店や観光施設も大盛況。駅舎に入居している地元特産品の売店には人だかりができていたし、ふらりと入った定食屋は人手が足りないからと何人もの客を断っていた。ちょっとしたフィーバーのようだ。

到着した列車から降りてきた客と、乗り込む客でごった返す増毛駅のホーム。
到着した列車から降りてきた客と、乗り込む客でごった返す増毛駅のホーム。
「増毛」という文字は縁起がいいとして、カメラを向ける人が多い
「増毛」という文字は縁起がいいとして、カメラを向ける人が多い
駅舎内の特産品売り場は大盛況。
駅舎内の特産品売り場は大盛況。
駅前の「風待食堂」は映画「駅 STATION」にも出てきた歴史的建造物。今は観光案内所になっている
駅前の「風待食堂」は映画「駅 STATION」にも出てきた歴史的建造物。今は観光案内所になっている

次ページ バスが充実し、鉄道に勝ち目はなかった