終着駅は意外にも“秘境”ではなかった

 8時40分、列車は新十津川駅へ向けて発車した。外は爽やかな気温なのに、車内は人の熱気でむしむしと暑い。このキハ40系は冷房装置が付いていないので、壁のボタンを押して天井の扇風機を回すしかない。扇風機には懐かしい国鉄のJNRマークが残っていた。

 新十津川駅までは約50分の道のり。車窓は変わらず、広大な農地が広がり、その合間に家があるといった感じ。札幌駅から遠くなるほど人里離れた雰囲気になるかと思ったが、そのような様子は全く感じられない。

 一方で、途中の駅は驚くほど簡素だ。どの駅もホームだけだったり、あっても掘っ立て小屋のような駅舎だったり。乗降客もほとんどおらず、記者のように1本前の浦臼行きで先行したファンが乗ってくるか、途中駅の撮影のために降りていくくらいなものだった。

たった1両の車内はラッシュ時のように混んでいた。天井では扇風機がブンブン回る。
たった1両の車内はラッシュ時のように混んでいた。天井では扇風機がブンブン回る。
車窓はのどかな穀倉地帯。建物は意外に多い
車窓はのどかな穀倉地帯。建物は意外に多い

 満員の乗客を乗せたまま、9時28分、列車はついに新十津川駅に到着した。無人駅なので、運転士に切符を見せ、前のドアから降りる。

 驚いたのは、駅前に大きな病院が建っていたこと。そして、法被を着た子供たちが団扇を振って出迎えてくれたことだ。駅舎内に貼ってあった地元紙の記事によると、子供たちはその空知中央病院にある保育所の園児たちで、朝の列車の出迎えと見送りをしているとのこと。また、駅前にはミニ牧場が作られ、ポニーが飼われていた。ホームにはコスモスが植えられ、シルバーウィークのころだったため、ちょうど見ごろ。周辺は住宅街だが、駅の周りだけはちょっとした観光スポットのようだ。

終着の新十津川駅。
終着の新十津川駅。
線路はホームの先でぷっつり途切れている。1972年まではさらに先の留萌本線・石狩沼田駅まで走っていた。札沼線の「沼」は石狩沼田駅を指している
線路はホームの先でぷっつり途切れている。1972年まではさらに先の留萌本線・石狩沼田駅まで走っていた。札沼線の「沼」は石狩沼田駅を指している
駅舎をバックに記念撮影をしている人が目立った。右奥に見える大きな建物が空知中央病院。
駅舎をバックに記念撮影をしている人が目立った。右奥に見える大きな建物が空知中央病院。
ホームの脇にはコスモスが咲き乱れていて綺麗だ
ホームの脇にはコスモスが咲き乱れていて綺麗だ
10分ほどで折り返していく列車を子供たちが手を振って見送っていた。
10分ほどで折り返していく列車を子供たちが手を振って見送っていた。
列車がいなくなると、駅周辺は静けさを取り戻す
列車がいなくなると、駅周辺は静けさを取り戻す

 列車でやってきた多くのファンは駅の周りを少し散策したあと、折り返しの9時41分発の列車で札幌方面へと戻っていた。ただ、記者も含めて十数人ほどがその場に残った。次の列車は12時59分までない。さてどうする?

 実は新十津川駅からは、列車を使わずに“脱出”する方法があるのだ。近くを流れる石狩川を対岸へと渡ると、函館本線と根室本線が乗り入れる滝川駅がある。特急列車もすべて停車する主要駅だ。その距離は4㎞程度。路線バスで約15分、徒歩でも1時間くらいでたどり着ける。

 地図を見ると、札沼線は札幌駅を出て最初は北西に向かうが、すぐに北東へと向きを変えるため、函館本線とは石狩川を挟んでほぼ並行して走っていることがわかる。住民にとっては、ディーゼルカーが1両でのんびりと走る札沼線よりも、特急列車や普通電車が頻繁に走っている函館本線のほうが断然便利。だからマイカーやバスで函館本線の駅へ向かってしまう。札沼線の沿線には民家も多いのに、輸送密度が1日81人/キロ(北海道医療大学-新十津川間)とJR北海道でワースト2位なのは、そういった背景があるのだ。

 ちなみにそれだけ乗客が少なければ収支も悪く、100円の運賃収入を得るのに2162円もの経費が掛かっているという(本社の管理費などを含む)。今のところ、具体的な廃止の話は上がっていないものの、1日にたった1往復になれば当然、なぜ走らせているのか疑問の声が上がるだろう。札沼線を少しでも盛り上げようと毎朝出迎えてくれる子供たちには気の毒な話だが、今回のダイヤ改正で命脈が絶たれた印象はぬぐえない。

新十津川駅に掲げられた時刻表。現在は3本だが、3月のダイヤ改正でたった1本になる。
新十津川駅に掲げられた時刻表。現在は3本だが、3月のダイヤ改正でたった1本になる。
駅前にあった新十津川町の空撮地図。石狩川の対岸に函館本線・滝川駅があることがわかる
駅前にあった新十津川町の空撮地図。石狩川の対岸に函館本線・滝川駅があることがわかる

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