2016年秋、イヤホン端子がないiPhone 7が発売された。iPhone 7にはLightning端子に接続するイヤホンも付属しているが、「充電にも用いるLightning端子がイヤホンで塞がるのは不自由」「音質的にサードパーティー製のイヤホンを使いたい」という声が多い。
そのため、ワイヤレスで接続できるBluetoothイヤホンは、イヤホン市場全体のなかでも販売比率を一気に増している。今、最もトレンドとなっているデジタル製品のひとつだといっていいだろう。
Bluetoothイヤホンでは、アップル純正の完全ワイヤレス製品「AirPods」が注目を集めている。確かによくできた製品だが、1万6800円と高価。それもあり、手軽に購入できる1万円以下のイヤホンに注目が集まっている。
電池持ちは「4時間以上」を目安に
Bluetoothイヤホンを選ぶ際の基礎知識をおさらいしておこう。
Bluetoothイヤホンはスマホとの通話機能も含めた「ヘッドセット」と呼ばれることもある。ただ、日本ではハンズフリー通話の人気は薄いこともあり、本記事では基本的に音楽を聴くためのBluetoothイヤホンを紹介している。
スペックとして注目すべきは、バッテリーの駆動時間。通勤・通学では4時間以上が目安で、長ければ長いほど充電せず使える日数が伸びる。
また、対応するBluetooth規格バージョンは省エネ性能にかかわる。高音質コーデックの「AAC」「apt-X」に対応しているかどうかも音質に影響するが、音質はイヤホン部の品質とも関係してくるため、コーデックは参考程度に考えたい。
もうひとつ、選ぶ前にチェックしたいのが製品の形状だ。
大部分のBluetoothイヤホンはワイヤレスといいつつも、イヤホン左右をつなぐケーブルとリモコン部が存在する。特にリモコンがどの位置にあるかは注目してみてほしい。通勤・通学では手元にあったほうが便利、ランニングなどスポーツ用途ならあまり使わないので首もとでよい、などと好みは分かれるはずだ。
今回は上記の点を踏まえて、ネット通販サイトなどで人気の5000円以下の製品を5つ比較評価した。音質に加えて、操作性や装着感も5段階で評価している。最後に総合評価と、筆者のおすすめ製品を述べる。
エレコムの2000円台入門イヤホン
LBT-HPC12MPBK(エレコム)
実売価格/2820円
今回紹介するイヤホンで最軽量となる12gで、左右をつなぐケーブルも細い極小モデル。小さいため装着時に気にならないという点ではベストだろう。イヤホンを操作するボタンも、電源や再生・通話などを兼ねる1ボタンというシンプルさだ。
音量操作ボタンもなくスマホ側で操作する割り切った仕様だが、リモコンを使わない前提で考えれば不自由なく扱えた。連続音楽再生は4時間。
【音質の傾向】
今回評価したイヤホンのなかでは音の明瞭感が良くなく、メリハリの弱いサウンドだった。J-POPを聴くと情報量は不足ぎみだが、男性ボーカル・女性ボーカルはそれなりに聴き分けられる。低音は一定ボリュームを確保。クラシックは鳴りは雑だがくせなく聴けた。
■音の情報量 ★★
■音の広がり ★★★
■低音 ★★★
■装着感 ★★★★★
■操作性 ★★★★
アマゾンで人気の中国発イヤホン
Q12(SoundPEATS)
実売価格/2899円
アマゾンで購入できる低価格イヤホンとして人気を集めている中国製のヘッドホンブランド。Bluetoothの高音質コーデック「apt-X」にも対応するのが特徴。製品パッケージも含めた総合的な高級感は、今回チェックした製品のなかでもダントツに高い。
装着感としては、スポーツ系のタイプと普段使いの中間を狙ったタイプ。セットアップ時に日本語ガイダンスが流れるのが親切だ。連続音楽再生は6時間。
【音質の傾向】
音の情報量をストレートに引き出すハイクオリティーなサウンド。特に音の弾けるような刻みの鋭さが素晴らしい。J-POPの音源を聴いても、ボーカルはバンド演奏と距離感を持って両立させている。低音も音楽的には十分で、ジャズやクラシックを聴いても音の通りが素晴らしい。原音に忠実なモニター系サウンドが好みの人にマッチする。
■音の情報量 ★★★★★
■音の広がり ★★★★
■低音 ★★★★
■装着感 ★★★
■操作性 ★★★★★
アンカーの防水対応イヤホン
SoundBuds Sport NB10(アンカー)
実売価格/3086円
モバイルバッテリーで知られるアンカー社の人気イヤホン。IPX5の防水対応でランニング時にも最適。イヤホン部はボリュームなどのボタンまで一体化しているタイプで、最も大柄な作りだ。
左右をつなぐバンドは太めだが、スポーツ用途を想定したデザインとして首の裏側で締めて調整できる作りは扱いやすい。連続音楽再生時間は8時間。
【音質の傾向】
5000円以下のイヤホンとしては情報量が多く、J-POPの音源を聴いてもバンド演奏もきちんと聴こえる。高域はアタックが固く出るので女性ボーカルは聞き取りやすい反面、エレキギターの音はやや耳につく。低音はエネルギッシュでバランスが良好。ジャズのようなアコースティックな音源もナチュラルに聴けた。
■音の情報量 ★★★★★
■音の広がり ★★★
■低音 ★★★★
■装着感 ★★★
■操作性 ★★★
胸もとに装着するクリップタイプ
GLIDiC SB-WS32-MRST(ソフトバンクセレクション)
実売価格/4380円
今回紹介する製品としては唯一、リモコン部とイヤホン部が分離できるモデル。胸もとにクリップ止めできるリモコン部からY字型のイヤホンが伸びる形状は初心者向けで、通勤・通学のような普段使いで扱いやすい。iPhoneが対応する高音質コーデック「AAC」にも対応する。連続音楽再生時間は6時間。
【音質の傾向】
情報量は並程度ながら高域を歯切れよく鳴らすサウンド。低域にはビートを刻むようなパワーがあり、メリハリ良くダイナミックに音楽を聴かせる。中域の楽器の音の響きが気になるものの、現代的なJ-POPの音源を聴いた際に相性が良く、男性・女性ボーカルともはっきり区分して聴かせる。
■音の情報量 ★★★
■音の広がり ★★★★★
■低音 ★★★★
■装着感 ★★★★
■操作性 ★★★★★
ワイヤレスでも重低音が特徴
LBT-HPC40AVBK(エレコム)
実売価格/4620円
迫力の重低音が売りの「GrandBass Wireless」のブランドから発売されるイヤホン。iPhoneが対応する高音質コーデックAACにも対応。イヤホンのユニット部分は大型だが、シリコン製のイヤーアームが付属しフィット感は良好だ。3ボタンのリモコンは首元で操作するタイプで、ランニングなどスポーツ用途向きの操作性だ。連続音楽再生時間は6時間。
【音質の傾向】
低音は他機種を圧倒するほどズンズンと響く。高域もシンバルの金属音をシャキシャキと鳴らすドンシャリ系なサウンドだ。パワーが低音に偏っているため中域のサウンドも埋もれがちで、男性・女性ボーカルの声もやや聴き取りづらい。一方、ダンス系ミュージックのビートを気持ちよく聴きたい人にマッチする。
■音の情報量 ★★★
■音の広がり ★★★★
■低音 ★★★★★
■装着感 ★★★★
■操作性 ★★★★
総合評価とおすすめ製品は……
5000円以下、かつ人気のBluetoothイヤホン5機種を集めた今回のチェックでは、製品の音質差が予想以上に現れた。
この価格帯のなかで音質が飛び抜けてよかったのがSoundPEATSの「Q12」、アンカーの「SoundBuds Sports NB10」の2製品だ。
いずれも音の情報量が豊富な本格的なサウンドで、コストパフォーマンスが高く、どちらを選んでも文句なし。ランニングなどスポーツ用途なら「SoundBuds Sports NB10」、普段使いなら「Q12」をオススメしたい。
音質面でもうひとつの注目モデルがエレコムの「LBT-HPC40AVBK」。この製品はいわゆる重低音イヤホン。ズンズンと音が響くため素直に高音質とは呼べないが、ダンス系ミュージック中心に聴くならマッチする。一般的に、屋外で音楽を聴くと重低音が不足しがちなため、通勤・通学など電車内で使う用途に向いている。
サウンドのみで選ぶと上記3機種が良かったのだが、Bluetoothイヤホンを並べて使ってみると、製品の形や装着感、操作性はやはり無視できないと思う。
扱いやすさという点では、胸もとにリモコンの操作部が来るソフトバンクセレクション「GLIDiC SB-WS32-MRST」がいち押し。リモコンが独立する形状は初心者でも分かりやすいし、音量もリモコン操作がしやすい。通勤・通学といった普段使いには便利だ。
エレコムの「LBT-HPC12MPBK」は音質的には他の機種を下回ったが、この製品は量販店でも入手でき、実売価格が2000円台と安い。そして今回紹介した製品のなかで圧倒的にイヤホン部が小さい。装着していても最も目立たないこともあり、大きなイヤホンをファッションとして敬遠する女性ユーザーには好まれそうだ。
今回チェックしたなかでは、音質の高さと普段使いできるデザイン性を両立させた、万人向けのモデルだ。主にアマゾンで販売するマイナーブランドだが、日本語の音声ガイダンスや高級感あるパッケージは意外だった。そして何より、これだけの製品が3000円以下で購入できるという、高いコスパも魅力だ。
(文/折原一也)
[日経トレンディネット 2017年2月24日付の記事を転載]
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