元犯罪者と元ジャンキーに出会う

【午前9時30分 バス停前】

 Taqueria La Cazuelaを辞去した後、イーストパロアルトを東西に走るベイ・ロードを西に向かう。すると、すぐそばのバス停前に、分厚い眼鏡をかけた黒人と痩せた白人が座っていた。黒人の方は刑務所から仮釈放中のホームレス、白人の方は薬物中毒者向けの更生施設に住んでいるという。

 IT企業の社員が住み始めているとはいうものの、元々が貧困地区のイーストパロアルトにはホームレスも相変わらず多い。アメリカンドリームをつかもうとしている人間がいる一方で、社会のぬかるみでもがく人々も存在する。ロナルド・パトリック・クラークと名乗る48歳のホームレスと、26歳のジャンキー、ジェレミー・ハンソンもそんな底辺をさまよう男たちに違いない。

バス停で出会ったホームレスのロナルドは仮釈放中だった
バス停で出会ったホームレスのロナルドは仮釈放中だった

なぜイーストパロアルトに?

ロナルド:やっちゃいけないことをやったんだよ。その罰でここに来ることになった。仮釈放中なんだよ。

何をした?

ロナルド:やっちゃいけないことだよ。

具体的には?

ロナルド:やっちゃいけないことだよ。

どこの刑務所にいた?

ロナルド:カリフォルニア州の刑務所にいくつかいたよ。不運なことに。

仕事は?

ロナルド:元犯罪者なんて誰も雇わないよ。分かるだろう?

就職面談で犯罪歴を話すの?

ロナルド:イエス。また電話するよって。Hahaha。それでお終いだ。

家は?

ロナルド:家賃が高くて住めないんだよ。

ジェレミー:連中(フェイスブックとアマゾン)のせいだ。あいつらは俺たちの3倍は稼ぐ。

ロナルド:連中はこの辺の家を買うのさ。再開発、再開発、再開発。俺たちみたいのはどうにでもなれだ。

ホームレスは多い?

ロナルド:この通りを行ってみな。まっすぐだ。素晴らしい光景が広がっているぜ。

あなたは何をしているの?

ジェレミー:そこの更生施設にいる。ジャンキーやアル中、問題を抱えている連中のためのプログラムだ。

何の中毒?

ジェレミー:前にメス(覚醒剤)をやってた。

住み心地は?

ジェレミー:ほかのところと変わりないさ。いいところもあれば悪いところもある。

いつからここに?

ジェレミー:1年くらいかな。

リハビリは大変?

ジェレミー:ちょっとね。毎朝1時間半、ここに来て自分の経験などを話すんだ。後はこの辺を歩き回ってエクササイズしているよ。

この辺にもドラッグの売人は多い?

ジェレミー:そこら中にいるよ(笑)。この辺はクラック(コカイン)が多いな。

将来の目標はある?

ロナルド:音楽業界に戻ってカネを稼ぐことさ。

ジェレミー:俺はシェフになりたい。この後、ジョブトレーニングに通おうと思っている。昔はレストランで働いていたんだ。

ありがとう。いい一日を。

ロナルド:お安いご用だよ。いい日を送りな。

ジェレミーは薬物中毒のリカバリープログラムに参加している(写真:Retsu Motoyoshi)
ジェレミーは薬物中毒のリカバリープログラムに参加している(写真:Retsu Motoyoshi)

 フェイスブックやアマゾンなどテック企業の社員が住み始めたことで、それまでのイーストパロアルトのイメージは変わりつつある。テック企業がカフェテリアのコックや警備員、本社の庭木の手入れなど様々な雇用を産み落としていることも事実だ。

 だが、ロナルドやジェレミーが指摘するように、高給取りのテック系社員が増えたことでイーストパロアルトの家賃相場は沸騰している。5年前には月1500~1800ドルで借りられたシャワー付きの1ベッドルームが今では3000ドルを軽く超える。

 その結果として起きているのは“Mobile House”の増加だ。急激な家賃の上昇に耐えられない低所得者がアパートを諦めて、キャンピングカーなどでの生活を余儀なくされているのだ。実際、イーストパロアルトにはクルマで寝泊まりしている人々が集まるエリアが複数ある。ロナルドが言うところの「素晴らしい光景」がそれだ。

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