「まずは仲間を増やさなければ」と考えた鈴木は小学校の子供を持つ友人に積極的に声をかけた。9月の新学期前に開催する保護者向けの学校説明会も、それまではヒギンズが説明していたが、保護者や生徒が前面に出るスタイルに変えた。学校関係者がアピールするより、実際に子供を通わせている保護者や子供が語る方が、説得力があると考えたからだ。他の学校の事例を参考に、SNS(交流サイト)を使った情報発信や資金調達の多様化なども進めた。

中間層の増大も変革の要因

 現在、Parents Association(保護者会)の会長を務めるトモイ・ゼマーも鈴木に引っ張られた一人だ。P.S.125のPre-Kに娘を通わせていたゼマーは、アレンの教育方針に深く共感したが、小学校の方はテスト重視の伝統的な学校である。どうしようかと考えていたときに、親の力で学校を変えていこうと鈴木に誘われた。Pre-Kのプログラムを低学年に広げていくという話もあり、「ならば」と残留を決めた。

 「ミス・アレンがいなければ残っていませんでした。最悪、(自宅で教える)ホームスクールを考えていました」

保護者会長を務めるトモイ・ゼマー。他の保護者とともに建設的に学校に関わっている(写真:Retsu Motoyoshi)

 無関心だった保護者が変わった要因として、地域のジェントリフィケーションもある。ジェントリフィケーションとは、再開発などで都市部の貧困地域に中間層が流入し、地域の人口構成やコミュニティが変化する現象のことだ。

 長年、P.S.125のあるエリアは所得の低い黒人やラティーノが中心だったが、マンハッタンの不動産価格が高騰したあおりで、相対的に安価なハーレムに中間層が流入するようになった。貧困層は朝から晩まで働いており、子供の教育に関わっている余裕はない。一方、新たな住民は所得が比較的高く、子供の教育にも熱心だ。地域のダイバーシティが進んだことも、P.S.125にとっては追い風になった。

 教育プログラムの多様化にも保護者が一役買った。一時は英語と算数だけに教科が絞られたP.S.125だが、現在はミュージカルやオペラ、楽器演奏、アート、水泳、脚本づくりなど多彩なプログラムを提供している。その大半は、外部のNPOなどが提供しているものだ。

水泳や演劇などの授業はNPOなど外部の専門家が関わっている(写真:Retsu Motoyoshi)

 ミュージカルや脚本はプロのアーティストで構成されるYoung Audiences New York、水泳はAsphalt Green Swim for Life、野菜作りはHarlem Grownなどが専門家を派遣している。こういったプログラムの中には保護者が実施主体を探し、資金調達にも関わったものも少なくない。

「今はポジティブなエネルギーがあふれている」

 「昨年は菜園を作り、週1回の水泳も実現しました。音楽や演劇などの授業は数年前にはなかったはずです。保護者として校長に私たちの考えるプログレッシブ教育を伝えましたし、校長にもそれは伝わっていると思います。今はポジティブなエネルギーがあふれています」

 1年生の息子がP.S.125に通っているアンジェラ・エステスはこう語る。同じく幼稚園生の息子がいるアリヤ・トーマスも続ける。

 「この2年間でプログレッシブ教育の導入は着実に進んでいます。ここに来た保護者はみんな感じていると思いますが、変わりたいのであれば自分たちが変化の一端を担わなければなりません。すぐに完璧になることはありませんが、私たちの校長はアイデアを受け入れる人です。校長がオープンだからこそ、こうしてカリキュラムづくりに関われる」

 昨年は10人に満たなかった保護者会の参加人数が、今年は30~40人になった。自分たちでも学校が変えられると思い始めたからだろう。