オバマ政権下の環境規制も石炭産業の崩壊に拍車をかけた。オバマ政権は2012年に“Mercury and Air Toxics Standards(MATS:水銀、他大気有害物質基準)”という排出基準を設けた。火力発電所が排出する水銀や二酸化硫黄などの大気汚染物質を規制するもので、浄化装置などの追加投資を嫌った電力会社は次々に石炭火力を閉鎖した。

 それでも、2012年頃までは資源価格高騰に伴う石炭価格の上昇もあり、生産量の減少をカバーすることができた。だがそれも、中国経済の減速と資源価格の崩壊で終焉を迎える。頼みの国内需要はガス火力への転換と規制強化で既に減少している。坂道を転げ落ちるように、ウェストバージニア州の石炭産業は悪化していった。

ヘロインや覚醒剤に走る失業者

 今では皮肉にも、ドラッグがエコノミー(経済活動)の一部になっている。

 失業率が10%を超える南部や南西部では、食料やガソリンを買うためにドラッグを手に入れ、他人に売って差益を儲ける。医薬品卸や医師への締め付けが厳しくなったこともあり、安易な処方は減りつつあるが、中毒になった人間が依存から抜け出すのは容易ではない。さらに、ヘロインや覚醒剤などの違法ドラッグまでもが急増しているのが現状だ。

 州全体で見れば、建設需要の増大もあり失業率は低下している。また石炭業界も製鉄用石炭の価格が上昇しているため、一時期の最悪期は脱しつつある。だが、地域をむしばむドラッグ汚染はそう簡単には解消しない。

ジャンキーの憂鬱

 ウェストバージニア州には、ドラッグ中毒に陥った人々向けの厚生施設が複数ある。チャールストンにある女性専用のリカバリー・ポイントも、そんな厚生施設の一つだ。入所者は61人。オピオイド鎮痛剤やヘロイン、覚醒剤など様々なドラッグの中毒者が毎日のように訪れる。

州都チャールストンのドラッグ中毒者のための厚生施設(写真:Retsu Motoyoshi)

 リンジー・スミスは2016年11月にここに入所した。15歳からオピオイド鎮痛剤を使い始め、ヘロイン、覚醒剤へとエスカレートしていった。2014年には違法ドラッグの所持と販売で逮捕されている。ドラッグの過剰摂取で死んだ友人は20人を超える。

 「ここから15分ほどの小さな町で育ちました。この辺りはアルコールやドラッグが身近で……。カレッジに行き、パーティー好きの友人と過ごすことが増えてエスカレートしていきました」

 彼女の家庭環境は複雑だった。3人の兄と2人の妹がいるが、上の2人は母親の再婚相手の連れ子。子供の頃は一緒に住んでいたが、その後、血縁関係のある姉妹同士で暮らすようになり、高校卒業とともに家を出た。上の兄もドラッグ中毒だった。

15歳から鎮痛剤を使い始めたというリンジー

 彼女の育った環境は確かに複雑だが、真の問題は、米国の貧困層は誰もが同じようなストーリーを生きていることだ。