産業の多様化に対する抵抗、言葉を換えれば「石炭に対するこだわりと自負」は、州の歴史と風土に深く根付いたカルチャーと言える。

 1800年代後半から1900年代前半にかけて、ピッツバーグで始まった産業革命を支えたのはウェストバージニア州の石炭だった。それを誇りに思っている労働者は少なくない。また、ウェストバージニア州に住む人々は質実剛健でプライドが高いと言われるスコットランド系移民の末裔が多い。それが変化を嫌う要因という指摘も聞かれる。

時空を超えて引き継がれるカルチャー

 「私の祖母はよくこう言っていました。自分は服を3着しか持っていない。一枚は着ているもの、もう一枚は洗っているもの、最後の一枚は日曜に着るもの、と。そういう文化が世代から世代に引き継がれているんです。弱さを見せちゃいけないんですよ」

 コテージビルの里親、キャリー・ソトメイヤーは言う。よく言えば質実剛健、悪くいえば固陋(ころう)――。時空を超えて引き継がれるカルチャーが変化の障害という指摘も頷ける。

 そして、それがエピデミックのもう一つの要因でもある。

 「ここの人々は高校を卒業すると、大学に行くか、石油や石炭に関係した企業で働くか、あるいは軍隊に入る。2世代、3世代と軍隊に入る人も多い」

 「それもオピオイド鎮痛剤に関係あるんですよ。戦地から帰ってきた人にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の人も多いんですが、プライドもあってセラピストにかかるのを嫌がる。弱く見えるからです。相手が誰であれ自分たちは敵と戦ってきた。でも、今はPTSDで悪夢に苦しみ、暴力の衝動に駆られ、そこから逃れるためにドラッグに走る。今の状態に陥る要因は複雑に絡み合っているんです」。ソトメイヤーはそう見ている。

 天然ガスなど経済の多様化が進みつつある北部、製造業が逆風に晒されている中西部、そして石炭産業が打撃を受けている南部と南西部――。同じ州内でも置かれている状況は異なる。だが、古今東西の産業史を振り返れば、新しいものを取り入れて多様化を進めていかなければ、古い産業だけに頼った地域経済はいずれ衰退する。

関税でアルミ工場が創業しても……

 トランプ政権が主張している大規模なインフラ投資が実現すれば、鉄鋼製品の需要が増えて石炭の需要も増えるという読みはある。だが、インフラ投資に対する共和党が支配する議会の優先順位は今のところ低い。石炭産業の雇用創出という主張と同様、現時点では公約に過ぎない。

 また、トランプ政権が外国産の鉄鋼製品やアルミニウムに関税を課すと発表したことで、コテージビルのアルミニウム工場は操業を始めるかもしれない。だが、保護主義によって米経済全体が減速すれば、建設需要など産業全体が影響を受ける。それは巡り巡って炭鉱業に打撃を与えるだろう。

 それでも、ウェストバージニアにはトランプ以外に見いだす希望がないのが現状だ。オピオイドと石炭。その依存症から抜け出す日はまだ遠い。