米国東部を南北に貫くアパラチア山脈の西麓に広がるウェストバージニア州。山と森に覆われた美しい地域だが、最近は不名誉な数字によって、全米の注目を浴びている。それはドラッグの蔓延と、その過剰摂取による中毒死の激増だ。

 様々なドラッグが蔓延しているが、中でも目立つのがオピオイド系鎮痛剤だ。その多くは医師が処方する薬だが、常習性が高く、そのまま中毒になるケースが後を絶たない。米疾病管理予防センター(CDC)によれば、オピオイド系鎮痛剤が原因とされる死亡者数は人口10万人当たり29.6人と、死亡者数の全米平均(7.3人)を大きく上回る。

 地域を蝕む「ドラッグ汚染」は地場産業の石炭産業と連関している。常軌を逸したドラッグ・エピデミックに苦しみ、大統領に希望を見いだすウェストバージニアに未来はあるのか。

(敬称略 ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)
※2017年5月10日に日経ビジネスオンラインで掲載された記事を加筆修正しました(肩書きやデータは当時)

日経ビジネス_「ドラッグ汚染のリアル」(動画15分)

 州都チャールストンから北に50分ほど。農地や牧草地が広がる街道を走り抜けると、目指していた小学校に着いた。“Cottageville Elementary School”。人口1800人ほどのコテージビルにある公立小学校である。この小学校では、全校生徒135人のおよそ3分の1が、祖父母や里親など、遺伝上の両親とは異なる保護者によって育てられている。

米国を襲う家庭と教育の崩壊

 「授業の内容についていけず、卒業が危ぶまれる子供が増えています。その家庭環境を見ていくと、実の親に育てられていない。そんな状況になった原因をさかのぼっていくと、ほぼドラッグがらみの問題にたどりつきます。これは、異常な状態だと言わざるをえません」。2012年に校長になったトレーシー・ルマスターは、そう打ち明ける。

 現代社会で、実の両親と暮らしていない子供は珍しいことではない。それでも、全校生徒の3分の1という数字は異常値と言っていい。ドラッグが原因となれば、なおさらその異常性が際立つ。

ドラッグ汚染に直面しているコテージビル小学校のルマスター(写真:Retsu Motoyoshi)

 この小学校に通う姉妹、ブリアーナとライリーも、10年に満たない人生ながら、厳しい生活を送っている。