オープニングはゴスペルソングとして人気が高い『You Are Good』。演奏が始まると、それまではおとなしそうな印象だった周囲の人々がノリノリになって踊り始める。一見して熟年夫婦が多い印象だが、20代と思われる若者も少なくない。その後もゴスペルソングの『Glorious Day』や『It is Well with My Soul』など、礼拝のスタートからしばらくはひたすらライブである。

 それに続く洗礼式も演出が凝っている。ステージ情報の十字架にスポットライトが当たったと思うと父娘が登場、父親が娘の信仰を告白すると小さなプールに娘の身体を浸した。幼児洗礼を否定しているバプテスト派にとって洗礼式は礼拝の重要な構成要素だ。

礼拝はギターとドラムの生演奏で始まる(写真:Paula Horstman)

メガチャーチは「ドラッグ」

 同教会のシニア牧師、グレッグ・マットの説教も従来の牧師のイメージとは違う。服装はセーター。ヘッドセットをつけて壇上を動き回る姿は企業のCEO(最高経営責任者)のプレゼンテーションに近い。

 この日の説教は“God vs ROI”。「ルカによる福音書」に登場する「善きソマリア人」の例を引きつつ、信仰とは神を信じることであり、ROI(投資利益率)、すなわち見返りを求めるものではないということを力説していた。

 周囲を見ると、目をつむり祈りを捧げる人もいれば、熱心にメモを取る人、スマホをいじっている人など様々で、必ずしも熱心な信者ばかりが集まっているわけではないようだ。

 メガチャーチを研究しているワシントン大学教授のジェームズ・ウェルマンはメガチャーチのムーブメントを「ドラッグ」と称している。

 五感を刺激する演出やカリスマ牧師のメッセージ、仲間同士の一体感など、メガチャーチは参加者にパワフルな宗教体験を提供している。そういった儀式を通して、参加者はポジティブなエネルギーや多幸感を得る。それが、宗教離れが進む中でメガチャーチが伸びている理由だと語る。

 「あの規模になると、フットボールスタジアムと同じように数多くの精神的エネルギーが生み出される。ポジティブな気持ちを作り出し仲間と分かち合う。それが人々を魅了している」

巨大な教会の中に無数の小さな教会

 そして、1時間半ほどの礼拝が終わると、参加者はそれぞれの“クラス”に別れていく。ヒューストン・ファースト・バプティスト教会は巨大な組織だが、信者一人ひとりとフェイス・トゥ・フェースのコミュニケーションが取れるよう、内部は信者の属性や興味などで細かく分かれているのだ。

 例えば、冒頭のムントンは独身者やバツイチなどが集まるクラスを担当している。独身の男女が集まるだけに結婚に対するニーズは強く、聖書勉強会だけでなくパーティやスポーツ大会など毎週のようにイベントを開催している。

 「実はさっきまで結婚式に出ていた。年間100組の結婚式を司っている」

 取材で訪れた晩も、ムントンが主催するダンスパーティがヒューストン郊外のレストランで開かれていた。30歳から50歳までの男女がライブバンドの演奏に合わせてラインダンスを踊っている。最初はよそよそしい様子だったが、徐々に打ち解けていく姿は見ていて楽しい。

 参加者は必ずしもヒューストン・ファースト・バプティスト教会の信者ではない。「普段は別の教会に行っています。今日ここに来たのは新しい人と出会えるのがいいと思って」。別の教会の信者だという女性はこう語った。

 「今は何もかもがデジタルになり、横に座っている人ともテキストで会話するような時代だ。だが、人間同士のリアルなつながりを求める人は増えている。教会の存在意義は今後さらに大きくなる」

 そうムントンは予想する。一般的に家族を重視するエバンジェリカル。結婚すれば子供を作り、子供も教会に通わせる。単身者に出会いの場を作るという戦略は信者のニーズを満たすだけでなく、教会経営の持続性という面で見ても理にかなっている。

 グループは単身者だけでなく、「30代後半の既婚者」「56~75歳の既婚者」「男性」「幼稚園児」「小学生」など信者の属性に応じて細かく分かれている。その目的は「メガ」と「スモール」の両立だ。

 マットのようなカリスマ牧師は対外的な顔として欠かせない。ただ、彼一人で全員の信者とコミュニケーションを取ることは不可能。そこで、50~100人ほどのグループに細分化して担当牧師を当てる。そうすれば、信者も小さな町の教会に通っているような感覚になる。巨大な教会の中に、小さな教会がたくさんあるというイメージだ。

独身の男女を集めたダンスパーティもしばしば開く(写真:Retsu Motoyoshi)