その間にも、米国に流れる銃のDNAは次世代へと着実に引き継がれている。
「この銃を手に入れたときはとても興奮しました。映画『ジョン・ウィック:チャプター2』で主人公が使っていたのと同じ38口径のピストル。私にとっては特別な宝物です」
サウスカロライナ州に住むシャイアン・ロバーツ。彼女は13歳ながら射撃大会の成人女子の部で優勝するほどの腕前だ。

ガンショップと天才少女
彼女が銃を触るようになったきっかけは父親の指導だ。
父親のダンは子供に銃の扱い方を教えるインストラクターだった。その際に、銃を巡る事故が後を絶たないのは子供にちゃんと銃の使い方を教えないからだと感じていた。ダンの家の中には銃がある。そこで、シャイアンが6歳の時に銃の使い方を教え始めた。
「子供は好奇心が強いので触るなといえば触りたくなるもの。銃は危険なもので、常に慎重に取り扱わなければならない。この子に銃の扱いを教えようと思った最大の目的はそこにあった」
ところが、シャイアンには生まれ持っての才能があった。銃の使い方を習ってすぐ、「ブルズアイ(標的の中心)に当てる」といって実際に命中させたのだ。それも連続で。才能を感じたダンはシャイアンが9歳の時に競技への出場を勧めた。興味を持ったシャイアンは初めて参加した大会、それも成人女子の部で2位になった。その後の4年間、シャイアンは成人女子の部で2回優勝している。
その人気は銃関連雑誌の表紙を飾るほどだ。2年前、NRAの展示会に参加した時はシャイアンのサインを求めて長蛇の列ができた。また、親子が住んでいたニュージャージー州で弾倉の銃弾数を制限する法律が通りそうになった際には、法案を阻止するため州議会にロビイング活動に行った。
彼女の存在を銃業界も放ってはおかない。
彼女の競技用ユニフォームには銃販売店のロゴで埋め尽くされている。どれも彼女のスポンサー企業だ。射撃は銃や弾薬の購入だけでなく、大会への参加費や移動などで多額の費用がかかる。その資金をシングルファーザーのダンだけでまかなうことは不可能だ。クリーンなイメージを演出したいガンショップにとっても、天才少女の存在は願ったり叶ったりだろう。

銃規制の絶望と希望
ダンのように銃の扱いを子供に教える親は少なくない。各地で開かれる子供向けのガンスクールも盛況だ。「そこに銃がある以上、使い方を教えなければ危険だ」という主張は別に暴論でもない。また、最近ではスポーツとして射撃を楽しむ子供も増えている。銃文化というカルチャーは世代を超えて継承されていく。
銃乱射事件が起きるたびに浮上する規制論。それが遅々として進まないのはNRAのロビイング活動によるところが大きい。だが、NRAに資金力と政治力を与えているのは会員である無数の個人だ。彼らが銃の必要性を感じている以上、現在の米国で銃規制が進むとは思えない。
希望があるとすれば、ミレニアル世代(2000年代初頭に成年になった世界)をはじめとする若い力だ。
フロリダの銃乱射後、彼らはソーシャルメディアを駆使して銃規制のムーブメントを起こそうとしている。岩盤は固いが、人口動態の変化とともにミレニアルやその下のジェネレーションYの社会への影響力は増しており、NRAを超える影響力を持ち得るかもしれない。また、銃文化とは無縁の移民が増えることで、銃規制推進派の力は相対的に増える可能性もある。
ただ、いずれにせよ時間がかかる。200年を超える歴史の中で培われた社会の仕組みやカルチャーを変えるのは簡単ではない。

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