大江英樹(おおえ・ひでき)氏
経済コラムニスト。1952年、大阪府生まれ。大手証券会社で個人資産運用業務、企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年後の2012年にオフィス・リベルタス設立。写真:洞澤 佐智子

 今、60歳で定年を迎えた人の多くが再雇用制度を利用して、引き続き同じ組織で働き続けています。東京都が行った「高年齢者の継続雇用に関する実態調査」(平成25年)では、86.1%の事業所が「継続雇用制度の導入」をし、定年到達者の65.8%が継続雇用されています。

 実は私自身も定年を迎えた後、半年ほど古巣で働いた経験があります。私自身の体験で言えば、再雇用というのは想像したほどいいものではありませんでした。そのため結局、再雇用からわずか半年で嫌になり、会社を辞めてしまいました。元々、定年退職後は自分で起業したいと思っていましたが、再雇用後の仕事があまりにもつまらなかったので、結果的にそれが起業する私の背中を押してくれたのです。

 そうした自分自身の体験からも、再雇用というのは、会社の規模、仕事の内容、社内での立場、そういった諸々のことを考える必要があると思っています。60歳以降も会社に残れると安心だからと、 “何となく”再雇用に応じて働き始めるのは考えものです。後で「こんなはずではなかった」ということにならないように、よく考えておくべきです。では、どういうところが良くてどういうところが悪いのでしょうか。

 そもそも「再雇用制度」や「雇用延長」がこれだけ一般的となった理由は、2013年に施行された「改正高年齢者雇用安定法」にあります。この法律によって雇用を希望する人に対しては原則として最長65歳までは雇用が義務付けられることになりました。公的年金の支給開始年齢が段階的に60歳から65歳へと引き上げられるのに伴う改正です。

中小企業は「自分の必要性」を感じやすい

 ただし多くの中小企業では、こうした法律ができる前から、60歳以上でも働いている人がたくさんいました。大企業と違って毎年新卒社員を採用するのが難しく人材はとても貴重で、長年仕事を続けてきてそれなりのスキルと知識を持った人に、60歳になったからといって辞めてもらっては困るからです。したがって中小企業の場合は、65歳までの雇用延長にとどまらず、70歳や75歳になっても働いている人がいます。現に東大阪市で町工場を経営している私の友人の会社では、最高齢社員は85歳だそうです。

 こういう職場で長く働くというのはとても幸せなことだと思います。なぜなら、働く上で最も大切なことである「自分が必要とされている」状況が確実に存在しているからです。

 ところが大企業の再雇用の場合はどうでしょう。大企業というのは多くの場合、個人のスキルで成り立っているわけではなく、組織で機能しています。ごく一部の特殊なスキルを持った人以外は、代わりはいくらでもいます。それに毎年新卒の若い人がたくさん入ってきますから、「ぜひとも会社に残ってもらいたい」という気持ちは会社側にはほとんどありません。「法律で義務付けられたから仕方なしに65歳まで働かせてあげる」というのが本音でしょう。