「今はなあ、随分遠いところにいるわよ。私はまだ阿弥陀さんのそばには行けていませんけれど、(西方極楽浄土までの)中間くらいの場所にいるわよ。それで、亡くなった人が三途の川を渡るために道案内してあげているの。まあ、ボランティアみたいな感じよ」

 「へえ、ボランティア? あの世で仕事をしているの?」

 「そうよ~。だから忙しいの。あんたが覚えているように私、普段から忙しくするタイプじゃなぁい?」

 「こっちの世界(この世)にもやって来ることができるの?」

 「行くわよ。お父さん(亡き母の夫)の背中にくっついてみたり、(筆者が住んでいる)東京にも行くわよ」

 「どこにでも行けるの?」

 「霊はね、どこにでも飛んでいけるの。姿を変えることもできるし、蝶とか鳥になったりもできるよ。今日はあなたの背中について来たのよ」

 「えっ!? あの世では不自由はないの?」

 「私のことは心配しないでいいの! 病気もすっかりよくなったから」

 「病気の時は苦しかった?」

 「とても苦しかったよ。でもね、阿弥陀さまを唱えていたから、少しは楽だったかも。みんなに心配をかけてしまったね」

 「極楽浄土はどういう世界なの?」

 「独楽浄土は阿弥陀さまがいるけれど、私はまだ修行が足りていないから行けていないの。でも、色んな人に会えるので、退屈じゃない」

 「また会える?」

 「また会えますよ。魂はずっと残り続けますから。お父さんにもよろしくね。じゃあ、そろそろ帰りますよ」

 こうして、明恵を介した"母"との対話は終わった。

 イタコの口寄せは、実はある程度の型がある。おおむね、以下のような構成になっている。

  1. 神仏を招くための経文や祭文をよむ。
  2. 死者の魂を憑依させる。
  3. 降りてきた死者は、生者に対し「口寄せしてくれた礼」を言う。
  4. 現在の心境を語り出す。
  5. 別れた時は辛かったが、今は「あの世」で元気にしていることを伝える。
  6. 家族の情愛に感謝しており、家族・親族の供養で往生、成仏していると話す。
  7. 家族に対しての予言と今後への忠告。
  8. 別れの言葉。
  9. 魂を送り帰す儀式

「天職だと思います」

 改めて、明恵に口寄せが、生者や死者にとってどういう意味を持つかを聞いた。

 「口寄せは日常の会話そのものだと思っています。行きている人も死んだ人が分け隔てなく語り合う。それが亡くなった人にとって、とてつもない喜びになる。だから口寄せすることは、故人の供養になります」

自宅で口寄せ中の田村明恵(仮名)

 死者の霊魂を降ろす時の感覚についても聞いてみた。

 「霊が私の中に入ってくる時の感覚は実は私もよく分からない。なぜなら、口寄せの最中は私の体は自分であって、自分のものではないから。仏様に自分の体を貸しているんです。だから、霊の姿、形を視るというよりも言葉で降りてくる感覚です。でも時には仏様の姿を見ることもあります。仏様が亡き人を連れてくる……」

 東日本大震災後は、ある旅館の部屋を借りて一晩中、口寄せを行ったことがあるという。ある男性は、妻と娘を津波で亡くした。屋根伝いに避難したが逃げ切れずに、波にさらわれた。

 「苦しかったか」

 「今、どうしているのか」

 口寄せをしながら、明恵自身も涙を流していたという。男性も泣き崩れ、しばらくは立てない様子だったが、落ち着きを取り戻すと、

 「もやもやしていたものがあったが、吹っ切れた」

 と話してくれた。

 「本当にかわいそうで、私も辛かった。でも必要とされているから。私はこの仕事、この世界が大好きで天職だと思っています。霊の存在を信じる、信じないなんてね、実際に愛する人の死を看取って初めて、死後の世界を信じることができるってものじゃない?」

※本記事は、2018年2月22日刊行の書籍『「霊魂」を探して』(鵜飼秀徳著、KADOKAWA、1600円)より一部を再編集したものです。