恐山4人、在家2人

 ここで少し、シャーマン(霊媒師)の呼び方について、少し説明しておきたい。青森では正統なイタコのことを「かか様」のほかにも、「オカミサン」と呼ぶことがある。しかし、この時の「カミ」は「神」ではない。あくまでも「地域の母親」のニュアンスが込められる。

 同時に、伝統的なイタコ以外に全国各地で活動するシャーマン(拝み屋など)のことを「カミサマ」と呼ぶことがある。こちらは、「神のお告げを伝える人」としての意味で使われる。

 さて、松田は早くから、「自分もかか様のようになりたい」と思い始め、林の元で修行を重ね、19歳で「師匠上がり」のしるしであるオダイジを受け継いだ。オダイジがあるから、「真正イタコ」として認められている。

 その実、「イタコまがい」が多く存在するのも事実だ。「悪霊が憑いていて、お払いするのにカネがいる」などと脅迫まがいのビジネスをしているインチキも多い。江刺家は言う。

 「今は、DVDなどでイタコの口寄せの映像が手に入るため、その技術をマネしようと思えばできないこともない。イタコの弟子筋を名乗って、首都圏などで口寄せまがいのことをやり、客から何万円も取る詐欺まがいも横行しています」

 ちなみにイタコの口寄せの料金は恐山では4000円、自宅であれば3000円が相場だ。良心的な料金面もさることながら、正統なイタコが長年、地域の信頼を得て活動を続けられているのは、江戸時代から連綿と続くイタコの系譜をきちんと遡れる、その信頼性に裏打ちされているからなのである。

 「現在、イタコは2つのタイプに大別されます。『恐山イタコ』と『在家イタコ』です。松田の場合は、恐山イタコに当たります。普段は自宅で口寄せを行っていますが、恐山にも夏と秋の例大祭にあわせて、出張します。在家イタコは、恐山には行かないタイプ。現存する6人のイタコのうち4名が恐山イタコです」

 こう江刺家は説明する。

 イタコと言えば恐山――。

 多くの日本人はそう考えているのではないか。確かに恐山は死者の魂が集うと言われている霊山で知られている。だが、恐山とイタコには相関関係がない。恐山は地元の曹洞宗寺院が管理しており、イタコは寺から委託を受けている訳でも、恐山に住んでいる訳でもない。

 恐山でイタコが口寄せを始めたのは、昭和の初期ごろ。戦後になって恐山の大祭にあたる毎年7月20~24日、10月8~10日の期間にだけ、イタコは組合をつくって集団で出張してくるようになった。言わば、お祭りの出店に近い。人が集まるお祭りの時期はイタコにとっては、稼ぎ時であるため、恐山を管理する寺院に場所代を支払い、口寄せを行っているのだ。

 それでも大祭の時期には「死者との再会」を願って、イタコを目的に人々が続々、全国から参集してくる。

 イタコ小屋の前には数十人もの長蛇の列ができる盛況ぶりだ。通常は1人当たりおよそ15分ほどだが、数人の霊を降ろせば1時間以上もかかる場合がある。早朝から並んでも順番が回ってくるのは夕方、ということも珍しくない。

 バスツアーで訪れ、丸一日並んだ挙げ句に、「時間切れ」で口寄せしてもらえず、イタコが責められるケースもあるという。科学万能主義のこの時代にありながら、亡き人の魂と再会しに、この地を訪れる人は枚挙に遑がない。