「半透明の女性」が

 東の霊魂観に共鳴するのが、同じく栃木県の浄土宗寺院、光永寺の住職、中野憲章(58)である。中野も東同様、これまで多くの霊魂現象を体験している。筆者に、そのいくつかを話して聞かせてくれた。

 2014(平成26)年3月頃、印象的な出来事があった。知り合いのAが、

 「(十一面観音で有名な寺の)女人堂に参ったら、一緒についてきた女性がいる」

 と連絡してきたのだ。その女性は30代と思われる髪の長い女性だった。赤いスカートを着用していた。体が半透明だったので、Aは直感的に、

 「亡くなっている人だ」

 と理解したという。

 女性はAの車に乗り込み、そのまま自宅までついてきてしまったために、知人の僧侶である中野に連絡してきたのだ。

 翌朝、中野がAの自宅を訪れるとAは、

 「(女性は)一晩中、うちの家にいた。でも、自分の部屋までは入ってこなかった。部屋の中に入ってこなかったのは、壁に薬師如来の札が貼ってあるからかも知れない」

 という。中野には女性の姿は視認できなかったが、Aは、

 「すぐそこにいる」

 と訴える。

 「女性は助けを求めているのかもしれない」

 そう考えた中野は寺で女性の葬式をすることにした。本堂に椅子を2脚並べ、右側にはAが座った。もう片方の椅子に中野が座ったところ、

 「女性の上に座っているよ」

 とAから注意された。Aは葬儀の間じゅう、心の中で女性と「会話」をしていたという。

 葬儀式が終わるや、Aは中野にこう告げた。

 「あ、今、女性が『有り難う』と言うなり、天に昇っていったよ」

 この時の中野の回向は、一定の効果を得たようだった。だが、時には「悪霊」に遭遇することもあるという。

「オレは成仏しない」

 その例を紹介しよう。以前、霊感が強いという10代の女性Bが、中野の元に相談に訪れた。

 「今、私の中に7人の霊が入っている」

 という。中野は本堂で供養をしたが、

 「一番強い霊が『これくらい(の供養)ではオレは成仏しない』と反発している」

 とBは訴える。Bに取り憑いた霊は、中野の供養では取り除くことはできなかったようだ。

 後日、中野がBと電話で話していた際のこと。通話にノイズが混じってきたと思ったら、若い女性であるBの声が、いきなりドスの効いた男性の声に替わったという。

 瞬時にBに乗り移った悪霊だと覚った中野は、電話口でこう投げかけた。

 「どうしても成仏しないのか」

 すると、こう返した。

 「絶対に(成仏)しない」――。

 中野は言う。

 「経験上、霊魂には守護霊的なものと悪霊的なものの2種類ある気がします。僧侶仲間や檀家さんにこういう話をしても信じてもらえないので、あえて私のほうから話すことはしませんが、たまに霊魂に関する相談が持ち込まれるのは事実です。霊魂は、死後も継続する人の思いや意識の現れだと思います。悪霊がいるとすれば、阿弥陀様にご縁がない人もいるということなのかもしれません」

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