では、仮に首塚やクスノキに手をつけたらどうなるのだろうか。

 「殺されるか、怪我をするか。それは分かりません。しかし、何らかの形で祟られるでしょう。本音では、施主企業やディベロッパーは将門塚を潰してオフィスビルとして活用したいのでしょうが、それを最初に誰の号令でやるか、が問題です。つまり、最初に手をつけた者は、特に犠牲になる可能性があります」

 三井物産や京阪電車の上層部が、将門やクスノキの祟りを恐れ、工事を避けたかどうかは分からないが。

 話は少し逸れるが、似たような「祟り信仰」の例で、最近、私は興味深い話を耳にした。

 地方の人口減少、高齢化などで激増している空き家問題に関することだ。なぜ、空き家が残り続けるのか、という文脈である。ある解体業者が、祟り信仰がネックになって、空き家を取り壊すに取り壊せない事情がある、と漏らしたことが印象に残っている。

「神棚の魂」を抜く

 総務省の「住宅・土地統計調査」によれば、2013(平成25)年時点での全国の空き家の数は約820万戸(空き家率13.5%)。2033(平成45)年には2147万戸(同30.2%)に上るとの推計がある。

 空き家が放置され続ける理由として一般的には、住宅を解体して更地になった場合、固定資産税が最大4.2倍に跳ね上がってしまうことや、現行の建築基準法施行以前の法律下で建設された建物でひとたび取り壊せば、再建築が認められない土地になってしまうことなどが言われている。

 ところが、ある解体業者はこう明かした。

 「古い住宅には神棚や仏壇が残されているケースが多いでしょ。それを、きちんと宗教儀式をし、魂を抜くか、鎮めるなどをした上でなければ、我々が軽々に建物の解体に着手することはないです」

 神棚や仏壇には「魂」が宿っているとされる。神棚であれば神主を呼んで「遷座の義」をやり、仏壇は「性根(魂)抜き」をしなければ動かすことができない。空き家問題が解決しない隠れた理由に、宗教儀式を済ませていない神棚、仏壇が家屋の中に残っているからなのである。

 しかし、仏壇や神棚もない、都会のスタイリッシュなマンションなどに若い世代のみで暮らしていると、死後世界に思いを巡らす、などということはあまりないかもしれない。空間的にも、同じことが言える。高度に近代化された都市部では昼は騒々しく、夜も煌々と明るい。都会で「霊」なるものを身近に感じることは正直、難しい。しかも、今は科学万能社会、即物主義社会である。

 だが、東京・大手町のど真ん中で今なお続く、将門の怨霊伝説や、大阪のベッドタウンに位置する萱島駅の祟り信仰が残り続けているのもまた、事実なのである。