「デカい目標に向かって毎日みんなで励む」

 本田は、「実際に優勝することがどれだけ難しく、現実的ではないと見られていることは当然分かっていた」と、後に述懐している。ただ、それを公言することで得られるものの大きさこそ、実は彼が求める本質であるように思える。

 一見無理だと思われる目標を立て、そこに邁進する。結果はその時にならないと分からない。仮に適わなかったとしても、そこに残るのは悔しさだけではない。目標に向けて必死に知恵を絞って汗を流したことで手にした成長と充実感。それこそが、人を強くし、組織を太くしていくエネルギーだと、本田は考える。

 前述の神田は語る。

 「失敗について、本田はなにか責めたり言ったりすることはないですね。だけど、自分の役割を最後まできちんとやり通したかどうか。または、そこにいたる過程に嘘はなかったか。そういった、仕事のやり方の細かいディテールに重点を置いた経営者になろうとしています」

 今回の取材の最終地、イタリア・ミラノ。そこで、本田は最後にこう語った。

本田圭佑氏はSVホルンの実質的なオーナーとして、5年以内に欧州トップレベルの大会であるチャンピオンズリーグへの出場を目標に掲げている(写真:HONDA ESTILO)
本田圭佑氏はSVホルンの実質的なオーナーとして、5年以内に欧州トップレベルの大会であるチャンピオンズリーグへの出場を目標に掲げている(写真:HONDA ESTILO)

 「すべては結果論。出た結果に言い訳する気なんてない。それでも、目標を立てるなら大きいものを描きたい。どんな結果が出たにしろ、その時点で目標に向かって努力してきた僕らが成長して充実していることは、もう目に見えている未来なわけで。ダメだった時でも充実した仕事だったというのは、当たり前の話にしないと。デカい理想に向かって毎日みんなで励んで、当然切磋琢磨もしながら常に歩みを止めずに向上心を持っていく。こんな素晴らしい人生はないじゃないですか」

 「ブラジルW杯で負けてしまったけど、後悔はしていない。あそこまでに向かっていく中で得た経験を、これからはビジネスの世界でも成功体験に変えていきたい。今は3部リーグにいるホルンを5年以内に1部昇格、そしてチャンピオンズリーグ(欧州トップレベルの大会)に出場させるという目標だけど、僕はこれをまったく無理な設定だとは思っていない。勝算は少なくともある。当然、サッカーでもビジネスでもいろんな計算外のことは結果として起こり得ると思う。でもとにかく、まずこの5年、信じた道を進んでいくということが、僕たちには求められていること」

 細かな課題はたくさんある。サッカー人生同様、ビジネスの世界も順風な航海などないことも理解している。ただ、アプローチは違えど、サッカー選手もビジネスマンも、目指す先は集団(チームや会社)と自身の成功。その成功という人生最大のテーマに向けて、本田という男の哲学がブレることはない――。

 経営者・本田圭佑。今後の一挙手一投足に、我々は耳目を傾ける価値はあるだろう。