「今を見続ける」。森保監督が選手らにその重要性を直接説いた場面があった。2012年のホーム最終戦となるセレッソ大阪戦の前日。森保監督がおもむろに語り出したのは「ドーハの悲劇」だった。1993年のワールドカップ最終予選。イラクに土壇場で追いつかれ、本大会初出場を逃したあの場面、森保監督は日本代表としてピッチに立っていた。前節の浦和レッズ戦での敗戦を受けて、初めて「あの時」の経験を語った。

 「あの時、選手は優勝を意識するあまりに積極性に欠けるプレーを続けていました。とにかく自分たちが持っている力を出し切ることだけに集中してほしかった。結果は後から振り返るべきもの。普段は自分の経験を語ることはほとんどありません。経験論だけを話しても『ナニ言ってるんだ、このおっさんは』と思われるだけですから。けれど、あの時は選手の心理状況と自分の経験が重なっていると直感的に感じました。だから話したのだけど、若い選手は『ドーハの悲劇』を知らず、ミーティングの後にこっそりとユーチューブで調べていたみたいです(笑)」

「クラブチームと日本代表、監督のやるべきことは同じ」

 サッカー日本代表監督には岡田武史元監督を除き、久しく日本人が就いていない。当然ながら、短期間で奇跡のような実績を残した森保監督に対する期待は日に日に高まっている。すでに一部報道では、次期日本代表監督や東京五輪の代表監督候補として名前が挙がっている。この点についても聞いてみた。

 「今はここ、サンフレッチェにいるのが現実だと思っています。さらに良い結果を出して、正式に代表のオファーを頂いたのなら、その時に考えてトライしたい。選手への話と同じで、監督も今の積み重ねの先に道がつながっていると考えていますから」

 これまで見てきたように、サンフレッチェでの成功は、長い時間をかけて監督がぶれない姿勢を示し、「見る目」に対する選手からの厚い信頼が生まれたことで紡ぎ出された点が大きい。だが、様々なチームから集まる代表の選手は短期間の練習で本番に臨まないといけない。代表監督では、森保監督流のマネジメントが効力を発揮しづらいのではないか。そんな疑問に対する答えには、穏やかな口ぶりながら確固たる自信がにじみ出ていた。

 「確かに代表は限られた時間の中でチーム作りをしなければいけません。表面的にはアプローチの仕方は変わってくると思う。でも、たとえ時間があっても選手の状態をきちんと把握しなければクラブチームはレベルアップできません。これまでもうまくいかないことの方が多かったので、絶えず修正しながらやってきた。だから時間の長い・短いに関わらず、少しずつ調整して最適な方法を見つけ出すというやり方は変わらないんじゃないかな」

 温和な雰囲気を漂わせながら、時に冗談を挟み、そしてこちらがはっとするほど凄みのある真剣な表情も浮かべる。静かに後ろ手を組んで練習を見つめるたたずまいは哲学者のようでもあり、慈愛に満ちた父親のようでもある。「私はカリスマタイプのリーダーではない」と謙遜するが、生真面目という杓子だけでは図り切れない、様々な魅力が詰まった人柄が周囲を惹きつけてやまないのだろう。