森保監督が徹底的に見ているということを選手たちが理解しているため、試合に出られなくても腐ることが少ない。一方、練習できちんと成果を出せば、経験の有無に関わらず試合に出してくれる。森保監督の「目」に対する全幅の信頼が、練習力と組織力の向上につながっているのだ。

 象徴的だったのがクラブW杯。リーグ戦でスタメンの機会に恵まれなかった若手選手らの活躍で勝ち上がり、南米王者のリバープレート相手に熱戦を演じた。日本勢初の決勝進出こそ逃したが、豊富な資金でブラジル人選手を買い漁る中国の広州恒大に2-1で競り勝ち、3位で大会を終えた。

「全選手は試合に出せない。だからせめて見てあげたい」

 森保監督は「見る」ことへのこだわりについてこう説明する。

 「Jリーグの試合に関われるのはサブを含めて18人しかいない。すべての選手を試合に出してあげたいと思っているけど、もちろんそれは不可能です。だからせめて練習の中ではすべての選手を見てあげたい。時間が許す限り、できるだけ見てあげたうえで、ベテランとか若手とか関係なく、ニュートラルな状態で試合のメンバーを選んでいこうと考えています」

誰よりも早く練習場に入り、最後まで残り続ける森保監督(写真中央)。練習中は指示を出すことが少なく、「見る」ことに徹する(撮影:東木場 昭裕)

 試合に出られない悔しさは、サンフレッチェ、京都サンガ、ベガルタ仙台、そして日本代表での経験を通じ、森保監督自身がよく分かっている。

 「残念ながらすべての選手がサンフレッチェで幸せになれるわけではない。でも試合に出なくても自分を磨くことを怠らず、この1年間で成長できた。選手としての商品価値を上げることができれば、他のチームで成功するかもしれない。私もスタッフも、苦しんでいる選手が1人のプロとして活躍できることを第一に考え、色々な働きかけをしています。クラブの人に聞かれたらちょっとまずいかもしれないですけど(笑)」

 もちろん森保監督一人だけでは全選手の状態をすべて把握することは難しい。そこでコーチやスタッフに監督と同じ「目」を持たせ、見る役割を分担している。

 

 森保監督が就任直後に着手したのは、コーチ・スタッフルームの模様替えだった。それまでは壁に面していたそれぞれの机を、中央の空きスペースへ向くよう円形に置き換え、いつでも座ったままの姿勢で簡単な打ち合わせや相談ができるようにした。

 「私は何か思いついた時にすぐに話しかけて議論したかった。選手全体を見るのも私1人では目が届かない。(コーチ・スタッフの)より多くの目でぶれずに見るためには、頻繁にコミュニケーションを取らないといけないと考えています。コーチにとってみたらいい迷惑かもしれないけど(笑)」