ミズノから引き抜かれた大本拓

 本田の求心力について、さらに別の角度から語る人物がいる。現在SVホルンでスポーツディレクター(主にチーム強化を担当)を務める大本拓。昨年「ホンダエスティーロ」に転職した彼は、以前は本田のサプライヤーである「ミズノ」でスパイクなどの開発に携わっていた。かつて用具のメンテナンスやケアで本田を支えていた立場は、現在ともにクラブを強化するパートナーの関係へと変わった。

 「自分はいわゆる普通の一般企業に勤めていて、その中で組織人間として働いてきた経験もあります。もちろん大企業ならではの良さもありますが、改めてここに来てからは仕事の本質について考えさせられました。例えば、ここでは本田という経営者の顔がすぐに見えます。仕事のスピード感を重視していますし、大企業よりも決済のスピードも速い。ワンマンのように見られますが、そうであればあるほど自分への責任も大きくなります」

 「どんどん物事が決定、確定していくということは、そこでの自分の仕事の精度を本当に高めていかなくてはならない。社内調整や部署調整の中に自分の役割が埋もれることがない分、ハードワークを求められる。そういう意識づけや方向性を常に口にする本田は、組織のリーダーにふさわしい人間だと思います」

 大本と本田の関係は、本田がオランダに移籍した2008年から続いている。長年の信頼があってこその現在の立場であることは間違いないが、大本は意外な本音を明かした。

 「周りの人達は、『本田の良き理解者だったから今の関係になった』と思われているところもあるみたいですが、僕の本心は実はその逆なんです。未だに、本田圭佑という人間をつかめていない。だから一緒に働こうと思ったんです。彼は誰に対しても、一定の緊張感を必ず作ります。もちろん信頼関係を築いて、周囲の人間に対する優しさもある」

 「ただ、他人に影響を与えたい人でもある。そこには緊張感が必要なんだと思っているのかもしれません。だから、正直仕事の話をしていて理解されない時があると、ちょっと悔しいですね(笑)。以前はクライアントの選手という付き合い方でしたが、ある意味刺激的な部分は今も変わっていない。ハラハラ感とワクワク感。本田は社内の人間にもそれを与えていると思います」

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