地方支局の方が、現地の裁判所に行って調べたとか。

横井:そうです。まずニュース原稿や、他社の記事も含めて調べ、それを改めて取材で確認して。

松浦:ニュースメディアのバックナンバーを調べて、これはと判断したものは裁判所へ行って裁判記録を見る。さらにその中から、裁判所の記録に出てくる弁護士の方に連絡を取って、という形で分けていったわけですよね。となると、これはやっぱり全数ではないですね、おそらく。

横井:こんなものではないだろうと思います。「介護は関係ないだろう」という事で、事前にはじかれてしまっているものもあるはずなので、漏れは当然あるはずです。全て当人に当たれているわけではないので本当に分からない部分もやっぱりあるんですね。

「これは間違いないだろう」と考えられるものだけでこの数になった。

横井:そうです。数字を出すことに関しては、いろいろ議論があったんです。出していいものなのかどうかということも含めて。実情と比べて、少ない数字が一人歩きするんじゃないか、という危惧がありまして。でも、「少なくとも」であっても、確実な数字を出すことに意味があるのではないか、という結論になりました。

 実は、警察の殺人などに関する統計には、動機として「介護看病疲れ」というカテゴリーがあるんですよ、ですけれど、看護というのは、それこそ親が小さな子供を看病していて……というパターンもありえます。また、動機として特定できなければそのカテゴリーに入れないので。なので、自力で調べるしかないだろうと。全国に協力を仰ぎましたが、本当になかなか大変な作業でした。

松浦:いや、組織的に動ける大きなところじゃないとできないことだなと。

横井:これを通して、我々も反省したところがあります。事件が起きると、一報は書くんですけれども……。

松浦:続報は書かないと。

横井:書かないので、「本当に介護(が原因)なのか」というのが分からないケースが多々あるんですね。

我々の誰にでも起こりうる

本でも触れられていますね。

横井:一報で「母親を手に掛けた人は介護が厳しかったというふうに言っている」というところまでは書いてあるんですよ。でも、本当にその後どういうふうに認定されたのか、判決がどうだったのかということは報じてないことも多くて、今回の調査を通して、関係者に連絡が取れる方は取って、実際どうだったのかをお聞きした。

 ですので、裁判では介護殺人と認定されていなくても、我々の方で判断できたものは入れているものもあります。これは間違いなく介護が理由だろうと。富山のケースがそうですね。

松浦:富山のあの老老介護のケース。裁判ではかなり厳しい、7年の実刑判決になった。

横井:はい、かなり厳しい判決でした。なぜなら、これは介護が理由じゃない、酒乱の夫が、いっときの感情でやったものだと判断されたからです。けれども、周りを取材していくと、いや、本人はかなり介護で追い詰められていた、ということが分かりました。

今のお話でも、裁判所の考え方自体がすごく幅があるといいますか、介護というものをちゃんと分かってはいないんだなということが、すごくよく分かります。

横井:それこそ、裁判官その人の人生観とか家族の状況とかからしたら「親に手を掛けるなんて、人間として許されない」という考えの人ももいると思います。

 でも、先に申し上げた通り、取材させていただいた事件の当事者は、本当に普通の、熱心に介護をしていた方がほとんどなんです。そして、親の介護を自宅でする人は今もたくさんいるし、自分もおそらくそうなる。これだけ少子高齢化が進んでしまったこの社会に生きている限り、確率の問題で誰にでも起こりうることなんだと。

(後編に続く)

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