松浦:いやいや、正確に言うと介護をしている間は、「みんな、なぜ母親の側にこんなに同情するのに、俺にはしないんだ」とひがみっぽく思っていただけ。ひたすら「俺になぜ同情が来ないんだ」と。終わった後に冷静になって整理すると、介護する側をちゃんと支えないと、支える側が共倒れになるよ、と気がついた。そんな感じです。

 今回の経験を通して僕が身もふたもなく感じたのは、「地獄の沙汰も金次第」。間違いなくそうだと思いました。つながりをつくる、といったミクロの工夫や努力はもちろん尊いし、やらなければいけないことですけれど、僕の発想はもともとマクロ的なので、社会的な仕組みをつくらなきゃいけないと。もっと言うと、具体的に、介護者へお金が動く仕組みをつくる。

横井:なるほど。

松浦:「お金を動かせ。スローガンじゃだめだ」ということなんです。

 今、ものすごく怖いなと思っているのですが、財政難もあって、危機的な状況をスローガンでごまかしちゃいそうな雰囲気を感じるんですよね。お金がなければ状況は改善しない。でもなかなかそうはいかない。結局のところ、問題が解決しないのはお金がないからなんですよ。だから、僕はいまその流れから、積極財政論者になっています。

 今回の一連の対談の中でずっと言っているんですけれども、団塊世代が後期高齢者になる。そうすると団塊ジュニアは介護する側に立つ。労働人口の中核となる世代が介護離職なんかしたら、今度は経済が回らなくなる。

横井:そうですよね。

松浦:だからそれはもう社会の側で何とか支えるようにしないと、そもそも経済活動が回らなくなる。経済活動が回らなくなってジリ貧になったら、家族だろうと何だろうと、支えるものが何もなくなるよ、と考えているんです。

 この介護殺人の話も、マクロに引いて見ると、結局、確率論的な世界に入っていくんです。こちらの番組と本はものすごく個々のケースに肉薄して、どういうふうにケアすればいいかという話への大きな手がかりが詰まっていると思うんですよ。それをぐーっとマクロ的に引いていくと、「今の介護の仕組みのままだと、要介護になっている人はこれぐらいいて、その中の一定割合が必ず人を、親を殺すよ」ということなんですよ。非常に冷たい言い方なんですけど。

 その割合を下げるためにはどうしたらいいかというのは、それはもうはっきり経済の問題です。少なくとも予算を突っ込めば減るのは確かです。そのためには、人口減少局面で経済を持ち上げる方法を考えなくちゃいけない。

2週間に1度「介護殺人」が起きている。

横井:介護の現場が、低賃金であったり、重労働であったり、精神的にも非常にきついものがあるということで人が集まらない。この話をすると必ず、「じゃあ、財源はどうするんだ」という話になってしまいますが、でもやっぱりこれは本当にもう待ったなしというか、すぐにやらないと、本当におっしゃった通り、これから働ける世代がどんどん自宅介護に回って、現場からいなくなる。

 1人の人には2人の親が必ずいるわけで、しかも今、少子といわれる中で、2人の親、最大4人を、だいたい1人とか2人で支えるというパターンが多くなると思うんですね、それを「施設は満員です。家でやってください」というのを、本当に突き詰めていくと…。我々が取材した方々は、その一番悲劇的なケースですけれども、ここに至らない、ものすごい社会的な悲鳴が今、上がっているんだろうと感じます。

 介護離職は10万人といわれていますよね。それだけでも大変な問題ですけれども、その人たちにどうやってもう1回社会に出て、稼いでいただくか。特に若い方は悲劇です。本当にそれを痛切に思いますね。

こちらの番組と本で個人的に強烈だったのは「今、日本では2週間に一度『介護殺人』が起きている。」という指摘でした。

横井:介護の担い手は、女性が7割、と言われています。我々が調べた範囲では、介護殺人に至るのは7割が男性なんですね。もちろんこれは、我々が調べた「2010年以降の6年間で少なくとも138件」というサンプル数の中の話で、社会的にバッと当てはめるわけにはいかないんですが。

松浦:7割ですか。

横井:そもそも殺人事件それ自体が、男が多いものなので、そこはちょっと複雑ではあるんですけれども、でもそこからやっぱり見えてくるのが、男性ということ自体に、こういうことに至ってしまう傾向があるというのは言えるのではないかと思いますね。

松浦:すごく身につまされますよね、本当に。

そして、本で詳しい背景を読んで、「介護で殺人に至ったケースが何件あったか」というデータそのものが、これまで存在しなかったことにさらに驚きました。

横井:そうですね。これでも網羅しているとは言えないとは思います。はっきり「介護が理由」と確認できないものは入れるわけにいかないので、確認できたもので138件だったんです。

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