―― それがですね、ある時、ものすごく仕事のできる後輩が「Yさん、飲みに行こう」と誘ってくれました。私は超いじけて「こんなのと酒なんか飲んだら運が下がっちゃうよ」ってな調子だったんですが、まあ、恵比寿で一緒に飲んだ。その時後輩が「確かに雑誌は失敗したよね」と。ずばずば言うやつなんですよ。「だけどさ、そもそも自分で考えた仕事で失敗できる奴って何人もいないよ? 俺、失敗したというだけでYさんのこと大好きだけど」と言われて、泣けちゃいましてね…あああ、また泣けてきた。

小澤:なるほど、彼はYさんにとっての「わかってくれる人」だったのですね。

―― そう言われたらまさにそうです。先ほどの、絶望の中にいる自分の「支え」になってくれたんだな、と、今初めて気づきました。

小澤:それで、自信がもう1回戻ってきたのですか。

―― いえ、そうでもないんですよ。「自分は無能だ」という認識は変わらない。ただ、この後輩君に対して「こいつが何かやるときは、やれることは何でもしてやろう」と思った。それは、自分に能力があるかないかとは、あまり関係なくできることじゃないですか。そこからモチベーションを取り戻して、ちょっとずつ上がって現在に至る、みたいな感じですね。

小澤:そうでしたか。

―― このときもうひとつ思ったのは、人は自分が登りたくない山でも、仕事だと思うと「自分の使命だ」と思って登っちゃうし、途中で吹雪になろうが落石に遭おうが、「ここで下りたらおれは人間としてだめなやつだ」ぐらいの思いがあって、下りられなくなって、そのまま遭難してしまう。そんな人が、この世の中にはいっぱいいるんじゃないかなと(7年前に「お父さんが『眠れない』のは、心の問題ではない」で触れました)。

小澤:その遭難状態からどう脱出するかですね。でも、その方法は教えてもらっていない。

松浦:うまく撤退する。あるいはやり過ごす。撤退戦の戦い方というか、生き残り方というか。言い換えれば危機の中で自分の「支え」をどう見つけるか。

―― はい。わたしはなんとか「下山」できましたが、そのためには杖というか、先生のおっしゃる「支え」が必要だったのですね。

本当の人間の強さは「レジリエンス」だ

小澤:私は、人間の本当の強さとは、「レジリエンス(resilience、自発的治癒力、復元力)」だと思うんです。自分の弱さを知った上で、苦しみから逃げず、心が折れない。

松浦:「苦しみを抱えてなお穏やかに生きる」という、小澤先生の、看取り、介護の姿ですね。

小澤:なぜ、苦しみを抱えながら心が折れず、逃げずにいられるかといえば、誰かに支えられていると実感し、自らを委ねることができるからなんです。だから、自分ではどうにもならない問題を前にしても、穏やかでいられるのです。

松浦:その「支え」が、自分の大事な記憶だったり、大切な人だったりするというお話でした。

小澤:言い換えれば、私たちの仕事は、死に直面したその方、介護に直面した方の、レジリエンスの起点、支えになるのは何かを知り、大切にすることです。

―― 励ますのではないのですね。

小澤:単なる「励まし」では、まったく通じない世界だと思うんですよ。だって、絶望で自暴自棄になりかかっているときに励まされたって、全然うれしくないでしょう。

―― ああ、当時の自分もそうでした。そうなんですよ。「またガンバレよ」とか言われても、「何も分かってないからそんなことを言うんだ」と逆に思っちゃいますよね。