「目指せ60点」と考えよ

小澤:一方で、自分も親も穏やかに、というゴールを設定したとすれば、仕事でも介護でも、100点は取れないと思うんですよ。どんなに頑張ったって。仕事をしなきゃいけないし、介護もしなきゃいけないし。そこで拙いのは、「100点を取れない」ので、すごく落ち込んでしまうこと。

松浦:そうですね。日々の仕事の上に介護の負担がだんだん乗っかってくるわけですから、そこで満点ということはあり得ない。

小澤:絶対ないです。だから最近、自分で話す場合には「仕事も介護も、60点を目指しましょう」という。

松浦:そうですね、そのくらいが上限だと思います。

小澤:ところが、仕事の現場で今まで100点を目指して戦ってきたビジネスパーソンが、いきなり「60点でよい」と言われても、なかなか「うん」とは言えないはずです。そこに今後の日本の社会、企業文化が問われる気がしています。

 今までは、競争に勝つにはミスなしの100点満点でなければいけないし、常に1位を目指すべきとされた。厳しい時代ですから生き残るためにはそれは必要なんですけど、これから、40歳、50歳の人が「急に親の介護でチームに参加できない」ようなこともあるかもしれません。そういう中で、チームをどう生かしていくのか。

 働く人がたくさんいて、いくらでもリプレイスメントできるのだったら、「いらないよ」とクビを切ればいい話ですけど、そういうわけにはいかない。だって新入社員だったらまだしも、その企業で20年、30年ずっと働いてきた大事な戦力ですよ。その戦力が急に親の介護で完全に失われる、というのはもう絶対に避けたいというのが、企業としては当然だと思います。この本をきっかけに、マネジメントに携わる読者の方たちにも、ご自身ならどうするかを考えるきっかけになったらいいなと。

ダイバーシティはきれい事でなく、社会的な必然だ

松浦:もう1つ、育児も実は同じですよね。

小澤:その通りです。

松浦:日本社会、日本の企業は、今までだったら子供が生まれたら社員に対して、「へえ、で、お前、どうするんだ」みたいな対応で、育児は家庭に丸投げしてきた。それが特に女性に関しては大きな負担になった。これからはおそらくそうはいかない。

 親の介護もそうだし、それから子供を育てるのも「社会的な事業」として見て、1人の人間、当事者の周辺のリソースの最適配分みたいなものを考えていかなくちゃいけない。それは会社というものに、社員の働かせ方をどう考えるんだという課題として、必然的に返ってくる。

小澤:ダイバーシティーはきれい事じゃなくて、「労働力の確保」という、企業のリスクマネジメントとして今後の5年後、10年後の企業に求められると私は感じています。

松浦:マクロではもう間違いなくそういう方向に行くと思います。一方で、小澤先生が、携われてきた「看取り」を通して「苦しみと穏やかさが共存する」という考え方にたどり着かれた、という点にとても興味があります。ここでミクロな話をしてもいいですか。

小澤:もちろんです。

(つづきます)

この記事はシリーズ「介護生活敗戦記」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。