小澤:介護の制度を利用した上で、子供として関わらないといけないこともあるので、そこはどこか心を平静で向き合えたら、本当はいいんでしょうけれど。

松浦:心の平穏、というのは負荷次第ではないかと思っています。心に余裕があれば平穏なんですよね。平穏にする一番簡単なやり方は余裕をつくること。つまり介護によって生活にかかっている負荷を下げること。それが一番簡単で根本的な解決。だけど、そのためのリソースがないからみんな四苦八苦している。

 僕は、これを解消するには、個人にかかる介護の負荷を下げる社会システムを作っていくしかないと思っています。若い人が減っていく状況の中で、増えていく年寄りを支えなくてはいけない。本の中にも書きましたけど、答えは効率化するしかない。大勢の年寄りをできるだけ1カ所に集め、人間をサポートする機械を使って効率化する。

小澤:なるほど。

松浦:今、自分が考えられる解がそれだ、というだけで、それが正しいかどうかは分かりません。そして、この本では精神の問題、心の問題というのは書いていない。「自分には書けない」と思って書かなかったんですけど、ただし、「結局のところ心の問題というのはある程度までは物理的な余裕であろう」とは考えています。

プロジェクトマネジメント的な考え方を

小澤:よく分かります。松浦さんは「介護は事業だ」と書かれていますが、私も、プロジェクトマネジメントの考え方を取り入れるべきだと訴えているんです。

 松浦さんのご専門の航空宇宙関連でもそうだと思いますが、プロジェクトって必ず「始まり」と「終わり」がありますよね。1つの目的、目標というものがあって、それに向けて多職種のチーム、ステークホルダーが集まって動くわけですよね。そして初期フェーズと中間フェーズと最終フェーズで当然、人、物、金の動きが変わってきますよね。

松浦:そうですね。その通りです。

小澤:それに対してガントチャート(※工程管理を視覚的に表す表の一種)が張られて、やるべきことを分割して、落とし込んでいくんですよね。親の介護にもそういう考え方があっていいと思うんです。

松浦:ああ、そう考えた方がいい。なるほど。

 しかし…そのプロジェクトの「終わり」は何なのですか。被介護者の死ですか。

小澤:違います。このプロジェクトのゴールは何かといえば、「本人と家族が穏やかであること」。その目的をしっかり見せていくことが大事です。

 そして、介護の初期のフェーズと中間フェーズと最終フェーズでは、「穏やかであるための条件」が変わるだろうと思うんです。最初からすべての条件は見えないですね。介護をやりながら見えてくる。

 一方で、人、モノ、カネ(予算)という資源は限られている。だから「これをやってあげられたらいいな」ということを、全部はできないんですね。これは企業でも同じですよね。限られたリソースの中で調整して、リスクマネジメントしながら落とし込んでいくという意味ではまさにプロジェクトだと思うんです。

 「ケアマネさんから言われたからそうした。でも全然親は喜んでくれない」「誰それかから言われてそうした。でも全然子供としてはうれしくない」では、ゴールには到達できない、本人だけじゃなくて家族も穏やかでなければ、それはいいケアにはならない。本人だけがよくて、家族が犠牲になって仕事ができなかったり、逆に預貯金がどんどん食いつぶされていいわけはありません。

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