松浦:早めに認めた方がというのは、うーん。本に書きました通り、その後で起こる事態に鑑みて損得で言えば明らかにそうなのですが、「早く諦めた方が得」だと、誰かに言われて納得していただけるのかどうか、自分には分かりません。だから、「サンプル数1」なのを承知で、一冊の本になるくらい言葉を費やしたのかもしれませんね。

小澤:本を読むと、すごく大事なメッセージがたくさん含まれていて。介護に当たる方の苦しみがまさに伝わってくるようで、実際に体験したことがない人でも、読んでいて共感されたり「早く認めた方がいいんだな」と思われる方は相当多いと思いますね。

松浦:どうなんでしょう。確かに反響はものすごく多いです。かつてないくらい。これぐらいの反響が僕が書く宇宙もので来ればいいのに、みたいな、そんな感じだったんですけれども(笑)。

いやいやいや(笑)。(※松浦さんの宇宙、のりもの関連の書籍一覧はこちら

小澤:これからの時代に、介護について悩んでいらっしゃる方、これからその悩みに突き当たる方が相当数いる。松浦さんの1つの経験が次に生かされるような礎になる本だと思いますよ。例えば宇宙開発も、うまくいかなかったらそれでおしまい、ではなくて、なぜうまくいかなかったかを次に生かすために、松浦さんらジャーナリストが本をお書きになるわけですよね。松浦さんが、この体験をご自分のものだけにしないで、こういう形で本にされたのは、すごく大事な、意味のあることをされたなあというのが、本を読んだ最初の印象でした。

松浦:ありがとうございます。

小澤:ご自身でも振り返っておられますが、ノンフィクションライターとしてご活躍なので、フルタイムの会社員よりある程度自由が利くとはいえ、やっぱり取材に没頭できなかったり、介護に時間を取られる分収入が得にくくなったりすると、いろいろな意味で不安定になる。ましてこれが一般企業の人が、急に何らかの理由で介護を必要として、となると。

松浦:もう、大変だと思いますね。

小澤:企業人が役職に就きながら、会議、出張、いろいろなプログラムが半年、1年先を見越して待っている中で、親の介護が降ってわいたら、計画を全部キャンセルするぐらいのインパクトですよね。

読者の多くの方、連載を担当した私もそうですけれど、中高年のビジネスパーソンは「この先、親が介護が必要な状態になったら、俺はいったいどうやって仕事をして、ほかの家族も支えて、しかも介護なんてできるんだ」と、みんな怖がっていると思うんです。

苦しみの中で安らかに生きることは可能か?

小澤:今までは、仕事も家庭も、100点を取りたいと頑張ってきた。でも、介護が始まったら100点なんて絶対に取れなくなる。

松浦:ええ、取れるわけは無いと思います。そして介護に直面しながら仕事で100点を狙うのも、正直、無理な話だと思います。

小澤:それが現実ですよね。そうですよね。仕事、生活、そして介護のストレスが重なって「死ねばいいのに」と、つぶやいてしまう描写(連載では「介護体制また崩壊、預金残高の減少が止まらない」の5ページに出てきます)は、この本の…言い方は失礼かもしれませんが、まさに白眉だと思います。

 そしてこの気持ちは、介護に携わる方にはどなたにもゼロでは無いと思います。そして、これは松浦さんだからこうして正面から書けるんですね。筆力ももちろんですが、仮にこれがお嫁さんの立場だったら、こんなふうには思っても書けないですよね。

介護に携わる方から「『死ねばいいのに』と、はっきり書いたところを読んで、この本は信頼できると思った。この言葉が脳裏に浮かんだことがない介護関係者は、プロの介護士から家族まで含めて、1人もいない」と言われました。

松浦:そうですか…。

小澤:私は「看取り」をしている人間ですが、「苦しみがありながら、人は穏やかになれるのか」ということを実はテーマにしています。その可能性を探る。どうしたら親の介護をする子供が、親が衰え、自分の仕事がきつくなるという苦しみがありながらなお穏やかになれるのか。「これだ」というひとつの答えはなくて、その可能性を探るしかないんですよ。そのヒントが、この本の中にたくさんあるんです。

松浦:えっ、そうなんですか。書いた本人がそんなこと言っちゃいけないけど(笑)。

小澤:例えば、弟さんが電話をかけてきたり、それから、松浦さんがお母さんに手を上げたその日に「Skype」で妹さんがドイツから連絡をくれたりしていますよね。

松浦:ええ。

小澤:これも救いですよね。もしお兄さんがいなかったら、あのとき妹さんがいなかったら、もしまったくの1人だったと思うとぞっとします。つまり「分かってくれる人」がいると、状況は苦しいままでも、救いになるし、うれしいんです。苦しんでいる自分の苦しみを分かってくれる人、ですね。

 案外、言われたそのときは分からないと思うんですが、介護でも、仕事でも、松浦さんの苦しみを分かってくれる誰かがいることで、大きく違ったのではないかなと。そんなふうに思いながら読んでいました。

そういえば松浦さんがケアマネの方から「よくここまでがんばられたと思います」と言われるところ(「果てなき介護に疲れ、ついに母に手をあげた日」)は、読者から大きな反響がありました。

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