松浦:何ていうのかな、日常が徐々に変質していくんです。ですから、放り出すタイミングがないんです。少なくとも僕の体験では、なかった。ほかの人はひょっとしたらあるのかもしれない。母を預けたときも、結局「これ以上はどうしようもない」という形で、外から転機が来た。自分自身も追い詰められていたので、外からのきっかけに反応したとも言えます。その意味では中から、とも言えるのかも知れません。
平川:僕は最初「ある程度介護するかな。だめだったら施設に預ければいいや」ぐらいに思っていたんだけど、途中から、施設に預けるにせよ自宅で看るにせよ、これは中途半端な気持ちではできないな。自分の生活も根こそぎ変わらないとできない「事業」だなというふうに思って。だから、僕はそれから家に帰っていないんですよ。もう6年経つんだけど。別に離婚したわけでもないのですが、妻とも別居するわけです。住民票も移しちゃいましたから。
えっ。
平川:だから6年も別居しているんですよ。いつか帰らなきゃいけないと思っているんですけど、6年別居していると、もうそっちが普通の生活になっちゃっているからね。一家離散の形になりましたね。
実家のメンテは、ネズミとの戦い!
平川:一家と言えば、松浦さんは家を改造されるじゃないですか。あれもまた面白かった。
松浦:平川さんもご実家の改装をされていますよね。
平川:ええ。僕は2回に分けてやったんだけど、まあ、そのときに昭和の…僕はたぶん松浦さんより10歳ぐらい上ですか。
松浦:はい、私は55歳です。
平川:じゃあ10歳以上、上なんですね。親もそのくらい上ということで、昭和の戦時中から生きてきた人たちなんです。それが東京に出てきて家を建てる。それから60年ぐらい経っているわけですよ。どうなっているのかというと、本当にびっくりするわけね。
改装するので掃除にかかったら、不要品というか、ゴミだらけなんですよ。押し入れにも台所の棚にもモノがぎっしり詰まっていまして。しかも、その奥は穴が開いていて、ネズミが自由に出入りして。ネズミとの格闘は相当長い間続きました。これはもう大変な、つらい作業でした。ネズミというのは、追い詰められたら人間にも向かってくるんですね。そして頭がいい。例えば米のビニール袋をぼんと置いておくと、表には一切痕跡を残さず、裏側から穴を開けてすこしずつ食べている。だから、ずいぶんネズミの雑菌を僕は食っていたんじゃないかな。
思い出しました。たまたま自分と同年代の同僚が、お母様が亡くなって、一人暮らしをしていたご実家を片付けに行ったら、まさにおっしゃった通りのネズミの巣と化していて、真夏の暑い中、駆除業者さんと毎週末行って駆除しようとしたんですが、ネズミたちは隠し通路をいっぱい掘っていて…。
平川:たくさんあります。たくさんあります。1つ見つけて潰しても全然堪えなくて。家の中にモノが多いから、食べ放題、隠れ放題なんですよね。
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