外反母趾についてネットで調べると、その人によって症状がまちまちで、手術となった場合でも、即日帰れるケースもあれば、2カ月前後の入院、となることもあるとか。つまり診察して貰わないことには、準備のしようがない、ってことです。

 私は一人っ子で、他に頼れるマンパワーはありません。もし長期入院になった場合は、N市にずっと張り付かないといけなくなるかも。幸い、お盆休みがあるので、病院から指定された日より前にN市入りして、母のマンションに入って滞在態勢を組むことにしました。これまでは、家が狭い(もともと部屋が小さい上に、母がモノを捨てないので一部屋が物置と化し、さらに狭い)ことを理由に安いビジネスホテルを取っていたのですが、滞在となれば、そんな贅沢は言えません。

 なぜこれまで実家に泊まらなかったのかをこのとき改めて考えて、「老いて動きが鈍くなり、会話が噛み合わない母を見たくない、長い時間一緒に居たくない」という気持ちが、実家に泊まることを避けさせていたのだ、と気づきました。

 私が子供の頃の母は、はつらつとして、オシャレで、言うことも気が利いていて、お金もぱっと使う、そして私をとことん甘やかす、理想で自慢の母親でしたから、老いた母との落差にいよいよ耐えがたいものを感じていたのでしょうか。ああ、まさに「母さん、ごめん。」です。私は(まだ)松浦さんのされたご苦労の万分の一もしていませんが…。

 若干の反省と、そして「でもやっぱり気が重い」の両方の気持ちを抱えて、半月もたたないうちに再びN市へ(もちろん高速バス)。長期滞在に備えてパソコン一式と仕事の資料本などを持参し、荷物の重さにふらつきながら実家に帰りました。

 おかえり、と、嬉しそうに私を迎えた母が、テーブルに出して勧めてくれたのは、大好きなデパ地下で求めたらしいタッパーウェアいっぱいの膾と、茄子のお浸し(しかもこちらはタッパー2つ)。

 「…えーと、ごはんとかはなしで、これを全部俺が喰うの?」
 「暑かったから酸っぱいものもいいでしょ? おいしいわよ」

小バエが飛ぶ部屋、エレベーターで「上」を押す…

 膾も茄子も好きですが、その量にがっくりきて「いらない」…と言うとものすごくがっかりしそうだなと思い、ひたすら膾と茄子を平らげました。が、やっぱりこれはおかずだし、こんな大量に食べる物じゃないと思うなあ…。そして、ゴミの処理がヘタなのか、あちこちに小バエがいてものすごく気になります。片っ端から叩きつぶし、「これは殺虫剤を買わないと」と言ったら「ああいうのは怖いからこれを使ってるの」と見せるのが、除菌剤。「怖くないけど、これじゃ駆除できないよ!」「そうなの?」…。お腹いっぱいになって、歩く様子も見たいし、コンビニでも行くか、と一緒に誘い、エレベーターの前に立ったら、母がいきなり「上」のボタンを押しました。

 「ちょ、ちょっと、なんで上のボタンを押すの?」
 「え?」

 自分が上に居るから、エレベーターを呼ぶなら上に呼ばないと…という混乱が母の脳内に生じたようです。まてよ、これ、半年前にデパートでもやっていたぞ。うーん、いよいよ色々拙いことになってきたのだろうか。

 その後は、洗濯物やゴミのありかから、それこそ「母親の下着」の在処や種類までひととおり聞き出し(これははっきり連載担当の成果ですね→「あなたは、自分の母親の下着を知っているか?」)まして、久しぶりに実家で、母の隣で寝ました。

 実家の布団はものすごく柔らかく、母がエアコンを切らないこともあってか、翌日は身体、とくに背中がバリバリに(涙)。それでも仕事をできるだけ片付けて、母と病院に行かねばなりません。小さなささくれが重なって、だんだん気持ちの余裕がなくなってきたのが自分でも分かります。この程度のイライラごときでもうしんどい。これでは、本当に認知症になった母親と向き合ったら、どんなことになってしまうのでしょうか。

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