母、整形外科を断固拒否

 「あのさ、病院に行きなよ。整形外科。診断して貰わないとどうしようもないよ」
 「ええ…。そうねえ…」

 「迷っている場合じゃないでしょ、だって痛くて歩くのが辛くなっているんでしょ? そのまま歩けなくなったら大変じゃないか」
 「それはそうなんだけど」

 「じゃあ、医者に行くしかないじゃない」
 「でも、手術なんてことになったら嫌だから」

 「は…? そうじゃなくて、歩けなくなったら困る、が先でしょ?」
 「まあ、そのうち行くわ」

 「そのうちじゃないって。明日行きなさい、明日!」
 「うーん…なんだか怖いから嫌」

 「診察していきなり手術、なんてわけないから大丈夫だよ」
 「だって怖いものは怖いのよ。もし足を切られたら…嫌よ」
 (内心の声:「うわ、出た、通院拒否…!」)

 …延々と続くのですが、どうにもこうにも話が通じず、「母はこんなに子供っぽい人だっただろうか」と、別の嫌な予感も膨らみます。「そんなにごねると、俺がまた帰省して、引きずって病院に連れて行くぞ!」とぶち切れかけましたが、これまた松浦さんの連載を担当した中で「老人は現状を変えることに強い抵抗を示す」ことを学んでいたので、心にブレーキがかかって、とりあえず対応は曖昧なまま話を終わらせました。

専門家の一言でころっと

 が、このままでは、自分で病院に行く可能性は限りなくゼロでしょう。
 まずい。とにかく、医者にかかって診断して貰わねば…。

 困り果てて「外反母趾」であれこれ検索していると「痛風による親指の付け根の痛みが、外反母趾だと勘違いされることがある」という情報が見つかりました。
 これは使えるかもしれません。改めて母に電話します。

 「さっきはごめん。調べたんだけど、痛いのは親指の付け根だよね」
 「そうよ」
 「それ、痛風の可能性もあるんだって。痛風だったら内科だし、手術じゃなくて投薬で治るから、怖くないでしょ。まずそちらに行ってみたら」

 まあ、それなら、と母が折れました。
 で、N市の家の近くの内科医を探すのですが、これがまた、母の知り合いの評判と過去の記憶とがごっちゃになって、あそこがいい、ここは嫌だ、と大騒ぎ。ホテルのコンシェルジェのように「お母様、こちらはいかがでしょう」と検索しては提案し、ようやく近所で評判のいいところを見つけ、電話番号と場所を教えました。

 翌日。母から電話がかかってきました。

 「Kクリニックに行ってきた」
 「お、早速。偉いえらい。で、どうだった?」
 「痛風じゃなくて、立派な外反母趾だって」
 (あちゃー…)
 「それで、『すぐ××病院の先生に紹介状を書きますから』って言ってくれたから、行かなきゃいけないの。また帰省して貰うのは悪いんだけど、付き添ってもらえる?」
 「(K先生、グッジョブ!)分かった。お盆休みを伸ばして、そっちにまた帰るわ」

 電話口で息子の私ががみがみ言ってもまったく病院に行く素振りを見せなかった母ですが、「お医者様」には実に素直で、あれだけ嫌がっていた整形外科に自分から行く、という願ってもない流れになりました。この辺は、松浦さんの本でもいろいろなエピソードを通して描かれていたとおり(例えば連載では「『イヤ、行かない』母即答、施設通所初日の戦い」)、「第三者の、専門家に入ってもらう」のは、やはり効果的です。親子だとどうしても生じる“甘え”が、「先生」相手だと消えて、「きちんとしよう」という意識に繋がるんですね。

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