週にたった2時間の「会話」で、母・復活!?
翌週からいきなり母の電話の声がいきいき、はっきりとしてきました。精神的に安定したのが伝わってきます。「直接、ヘルパーさんとお話しするのが愉しくて愉しくて」。しおれていた花に水が与えられたような感じです。他人のせいにするような言葉も出てきません。そもそも話題に詰まらない。こんなのは何年ぶりでしょうか。他人との、生の会話は大事なんですね。電話とは段違いの効果です。そしてそれは、プロの方とであれば、親族とでなくてもかまわないのです。
さらに1カ月後、散らかり放題だった部屋を片付けるべく収納用品を満載してクルマで帰郷してみると、母は美容院に行ってすっきりした顔で迎えてくれました。見た目を整えることに気持ちが行くことも含めて、見違えるほど元気そう。夜に地元で評判の釜飯の店に連れて行くと、母は喜んで平らげました。翌日、いつものお医者さんに連れて行って診療を受けた際も「ひと月前とは別人なくらい元気そうになりましたね」と驚かれました。
週に2回、1時間ずつというもっとも軽いレベルの支援で、なにほどの変化があるのだろうか、と思っていましたが、このくらいの頻度で、たわいないお喋りができることが、母にとってはぴったりだったようです。「家事」の支援の形をとりつつ、日常の些事やお互いの思い出話といった、生き生きしたコミュニケーションが気持ちを支えてくれるのですね。会話の力、本当にすごいです。思い知りました。
川内さんに報告すると「それは本当に良かったですね。そのままふさぎ込んでしまって、深刻な事態になる方も少なくありませんよ」と教えてくれました。
その後も、いまのところ母の安定は続いています。介護戦線に勝利はなく、ただ後退戦闘が続く。その中で、ひとときの安息、下っていく足が一旦止まっただけ。しかし、始終緊張していてはこちらの闘う気力が持ちません。いまは「この小春日和はいつまでもは続かない」と認識しながら、すっかり気楽にできるようになった母との電話の会話を楽しんで、ときどき帰郷しています。
ヘルパーさんの介護の力を見た!
そうだ、これだけはお伝えせねばなりません。前回の帰郷時に初めてヘルパーさんとお会いし、「ヘルパーさん」は、いわゆる家政婦さんではなく、介護職のプロであることを目の当たりにしたのです。
もちろん、ヘルパーさんの家事能力はめっちゃくちゃ高いのです。買い物を整理し、あっという間に煮物を作り、部屋を片付け、掃除をこなす。たとえばトイレは深呼吸できそうなくらいです。一方で、例えば生ゴミの始末とか、これまでも変わっていないところもあります。仮にお願いしたとすれば、部屋も台所もなにもかも、あっというまにぴっかぴかにできることでしょう。
でもヘルパーさんは「わかりました。それでは、ゆっくり、Yさんのお母さんと一緒にやっていきましょう。ゆっくりいっしょにやりましょう、ね、☐子(母の名前)さん?」と言います。それに対して母は「はい!」と、女学生のようないいお返事。生きる気持ちを焦らずに引き出すことを優先し、そのための方法論をたくさんお持ちなのだろうなあ、と思いました。
「もうこの方のおかげで、すっかり気持ちよく暮らせるようになって」と母が言うと「それは☐子さんの持っている力なんですよ。わたしも☐子さんから一杯学んでおかえしをいただいています。そういう双方向が、介護なんだと思うんです」
介護者の家族への気配りももちろんあるにせよ、この方はおそらくかなりの部分、本当にそう思われているのだと感じました。
具体的に母がなにをフィードバックしているのかは、私にはまだわかりません。いつか分かる日が来ることを祈って、最後にヘルパーさんの言葉をそのまま書いてみました。
今回の記事の「前日譚」は以下です。
- 担当が『母さん、ごめん。』読んで帰省してみた
番外編01:母の家にやっぱり未開封の通販の箱 - 介護の相談でうっすら感じた「業界用語の壁」 番外編02:地域包括支援センターに行ってみた
- 「母の足の形の変化」にまるで気づかなかった私 番外編03:手術が怖いと医者にかからない母をどうしよう
- 「ん? 母さん、血圧なんていつ測った?」 番外編04:ああ、母は思いつきでものを言う
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