母よ、あなたという人は……

 驚いて母に電話すると「そういえば、書類や本の入った袋をもらった」という。「本当に市役所の人は、なんでもっとちゃんと教えないんだろうね」とまた理不尽に怒り出す母。「そうじゃない。あなたはもうもう新しいことを覚えるのがとても難しくなっているんだから、人のせいにするクセを付けたらダメ」とまたまた言って聞かす。どこまで通じているのかはわからないが、他人の悪口を言い倒す母と会話するのが辛いので言わずにいられない……。

 夕方、包括の方に電話して事情を話すと「なるほど、お母様もやりますね」と笑ってくれた。介護保険は、申請した時点で使用が可能(=ケアマネージャーとの相談が可能)とのこと。こうなったら、一刻も早いほうがいいですか?

 「言ってはいけない話ですが、ケアマネはサービスを使わせることが収入に繋がるので、相談した上でゼロでは気の毒です。かといって、お母様が求める要素が入っていないサービスを入れてもお困りになるだけですから、Yさんがお母様と、じっくりお話をされた後でご相談された方が」と包括さん。

 ごもっとも。だけど、電話口でのやりとりがいかに当てにならないかを思い知った後なので、直接話した方が最終的には早そうです。

 「じゃあ、木曜日に介護保険認定調査センターの審査の後、母と話して、金曜日にケアマネさんと相談では」ということで合意。

 「申し上げにくいですが、認知症的な状態が出ていることも、Yさんから直に認定の方にお伝えした方がいいでしょう」と、包括さんからアドバイス。はい、そのつもりです。

 編集Yです。ここまで延々と憂鬱なお話をお読みいただいてもうしわけありませんでした。

 松浦さんの連載と単行本『母さん、ごめん。』は、「介護は事業だ」という心構えと「家族だけで引き受けようと考えてはいけないし、考える理由も実はない」ことを、編集作業をした私に骨まで染みるように教えてくれましたが、お母様と同居の状態で介護生活が始まったので、私のような遠隔地の場合には触れていません。

 今回ご紹介したのは、一言で言えば「介護保険証の紛失」の話ですけれど、まさか自分の介護戦線が、そんなベタなところから始まるとは思っても見ませんでした。

 ですが、親が遠隔地にいると意外にシビアな問題になることは、私の悪戦苦闘、というかほとんど1人で勝手に悩んで苦しんでいたこと(母は実はやるべきことをすべてやっていた。それを私に伝えられなかっただけ)で、お分かりいただけたのではないでしょうか。

 実際、年金関連はいざしらず、「介護保険証」がどこにあるか、お元気な方ほど普段は意識が行かないので、いざ必要となったときに「知らない、覚えていない」という親御さんはけっこう多いそうです。

 同居、別居を問わず、お元気なうちに介護保険証の所在を確認し、共有しておくこと。もし紛失していたら、再申請を行うこと。すぐにでも出来ますし、帰省された折にでもやっておくことをおすすめします。具体的な申請方法や窓口は自治体によって異なる可能性もありますので、恐れ入りますがお調べください(わたしの場合はN市の「福祉部 介護保険課」が担当部署でした。なお、川内さんによれば「概ね『介護保険課』かと思います。窓口で『介護保険の申請』と伝えれば、担当課につないでもらえます」とのことです)。

 いずれにしても、誰かが似た事例で先に悪戦苦闘した経緯を知っておくと、いろいろなトラブルにも大慌てせずに済みます。私も事前に松浦さんの本で“経験”しておいたことが、本当に役立っています。本記事の、介護保険証のケースで重要なのは「なくしても再発行のハードルは高くないので、焦る必要はない」「でも、やっぱり面倒くさいので、なくす前に手を打つべき」です。どなたかの役に立てば幸いです。

この期に及んで「あれ? 資格者証がない?」

 おしまいに、その後のお話を手短に。

 私が帰郷し、N市の家で介護認定の方が帰られた後、母、私、ケアマネさんほかとで「担当者会議」を開催しました。まだ介護保険証はありませんが、「被保険者資格者証」さえあれば、介護保険の申請ができるのです。さあ母さん、さんざん苦労したその資格者証は?

 「市役所でもらった袋はこれなんだけど」

 「なるほど……あれ? あれれ? パンフばっかりだ。出てこないよ? ないよ? これで全部?」

 ケアマネさんも驚いて袋をひっくり返しますが、書類(A4で1枚)は見つかりません。

 呆然とする会議参加者一同。

 「うーん、まだ市役所が開いていますから、Yさん、お母様とご一緒に再申請に行かれては……」とケアマネさん。

 ここまでやってそんなオチかよ、でも仕方ない、と、泣きそうになりながら母を見ると、ふと財布を開いて……

 「それだ、それですよ!」

 ケアマネさんが、財布の中の小さく折りたたまれた紙を見て叫ぶ。ええっと驚いて取り出すと、まさしく「被保険者資格者証」。ああ、やれやれ。これでやっと手続きができることになりました。大事すぎて別に仕舞って忘れていたんですね……川内さんによれば、こういうケースもありがちらしいです。

後日届いた(再発行した)介護保険証。苦労しました……

 さっそく、翌週から週2回、1時間、ヘルパーさんが来てくれることになりました(その後、「要支援1」という判定も正式に出ました)。

 でも、本当に驚いたのはそのあとです。