「衝動的に親を引き取ってはいけません!」

 「Yさんのような、遠距離での介護の場合、介護者側が思いあまって衝動的に地元からじぶんのほうに親を移してしまうパターンが本当によくあるんですよ」

 「あ、やっぱり。私も実はちょっと考えていました」

 「ですよね。必ずお考えになると思います。が、私が見る限り、『とにかく自分の近くに』と、よく考えずに連れてきてしまった場合、必ずしも双方の幸せにつながっていないんです」

 「え、そうなんですか?」

 「落ち着いてじっくり考えるべきです。Yさんには東京のご家族との日常があり、お母様にはお母様のN市での日常がある。それが続くことが実は、重要で、幸せなことが多い。もしかして『親を自分の近くで介護できない自分は、親不孝だ』と思っちゃったりしていませんか」

 「うっ……そうですね。ありますね。もっと正直に言えば、他人からそう思われるんだろうなと考えたこともあります」

 「Yさん、そうなんです。遠距離の親御さんがいる場合、どうしても自分で自分を責めがちになります。ですが、そんなことは絶対にない。無責任な第三者がどう思うかなんて自分とお母様の人生には何の関係もない。冷静に、双方の幸せを考えることが大事ですよ。忘れないでくださいね」

 心中を見透かしたようなアドバイスの数々が効いて、やっと気持ちがすこし落ち着きました(詳しくは川内さんのインタビュー「人生の目的は「親の介護」。それでいいのか。」、著書、『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』を)。

 そんなところに、夜になって母から「携帯電話が故障して使えない」と(固定電話から)電話が掛かってきました。ちょうど忙しいところで、「▲フト▼ンクに行って聞いてくれ」と言うしかなく、落ち着いたところでもういちど電話してみると、昨年行ったはずの店の場所が「なんだか……よくわからない」という。思いついて、携帯の電源ボタン(これがどれかを教えるのが、また大変)の長押しを試させると、なんのことはなく復活したようでした。

 一段落はしたのですが、説明する自分の口調がいかにもつっけんどんだったのが、我ながら小さい…。仕事での消耗を言い訳に、気持ちが冷えているのが自分でもわかるのでした。

「介護保険証はありますか?」

 そして救急車呼んじゃった事件発生から翌々日。

 N市の包括さんからお返事が来ないので電話してみると「夏にお会いしたYさんですよね、すみません! メールが迷惑メールフォルダに入っていました。もう大丈夫です」とのこと。

 「Yさんは東京にお住まいですので、介護の申請はこちらでやらせていただくこともできますよ」と、昨日のアドバイスで出た件を持ち出してくれて、心中おもわずほっとする。近日中に帰郷せねばならないにしても、大慌てにならなくてもよさそう。申請には具体的に何が必要なのでしょう?

 「申請には介護保険被保険者証(介護保険証)が必要ですので、ご用意ください。緑色のハガキ大で、65歳以上の方には必ず送られています。が、年金手帳や健康保険証と違って普段は用がないものですから、しまい込んでなくされる方が多いのです。もし見つからなければ再発行してもらうことになりますが、これはご本人がされるのが一番簡単で迅速です」

 ……うーん。ちゃんと取ってあるとは思えません。嫌な予感しかしない。
 でも、本人にいちおう確かめてみませんと。

 母に電話してみるも「介護保険証? そんなものは来ていない、見たこともない」と、ある意味予想通りのお返事。まあ、15年がところ昔のことだからなあ……。

 状況を理解してくれない母に、まず、身の回りや生活を見守ってもらうヘルパーさんに入ってもらおうと考えていることから説明を始め、それには介護保険の申請が必要で、介護保険証がいること、65歳以上ならは必ず届いているはずであること、なくすと介護申請ができないこと、本人が再発行を申請してもらうのが一番早いことを伝える。お察し下さい、どれほどの苦労とイライラが私を見舞ったかを。

 とはいえ、口では「ヘルパーさん? いいわよそんなの」と言いながら、自分の健康や精神状態に自信がなくなっているタイミングだったので、強くは抵抗されなかったのは幸運でした。ここで感情的に反発されると壁が一気に上がりそうですから。

母、市役所に行く

 「市役所は無愛想で……嫌いなんだけれど」
 「そうはいってもしかたないでしょう」

 と、スマホで調べた申請窓口を教えて、そこの人に「介護保険証をなくしたので再発行をお願いします」と伝えるように言い聞かせました。「場所はどこかしら」「母さんの大好きなデパートの前ですよ!」やれやれ。でも、盛り場のど真ん中に区役所の出先を置いてくれるのは便利だし、行く方も気分的に楽でしょうね。

 ともあれ、これで母が窓口で再申請すれば、介護保険証の代わりになる書類(被保険者資格者証)が出て、あとは包括の方にお任せすれば一段落……と思ったのですが、もちろんそんなに甘くなかった。

 夕方、母に電話してみると「なんだかね、『今まで通りの保険証でいいんですよ』と言われて帰らされたわ」と、わけがわからないことを言う。

 いろいろ聞いてみましたが、結局、資格者証は受け取れなかったらしい。もうがっくり。途切れ途切れの話の中には、包括がどう、とか、「状況を確認するために誰かが訪ねてくるらしい」という言葉もあり、介護関係の窓口に行ったらしいのですが、どうにもこうにも要領を得ないのです。さんざん聞き直して「区民生活課(の、おそらくは後期高齢者医療保険料納付相談)」には行ったらしいことがわかってきました。