失禁、異常食欲、排泄の失敗

 2015年の夏を乗り切った10月ぐらいから、7月に組んだ介護体制のほころびが始まった。

 最初のほころびは、失禁する尿の量が増えたことだった。

 尿漏れパッドでは追いつかなくなり、リハビリパンツを常時着用しなくてはならなくなった。前々回、書いた通りである。これは、ヘルパーさんたちの助けを借りて乗り切った。

 次に起きたのが、過食である。つまり異常な食欲だ。

 ある日の夕方、帰宅すると、台所が信じられないほどとっちらかっていた。

 買い置きしていた冷凍食品の封が切られ、そこここに放置されて溶けかけている。ガスコンロには水を張ったフライパンが乗せてあり、冷凍餃子が放り込まれていた。

 年初に料理ができなくなった時点で、用心のために常時ガスの元栓は閉め、トースターなども電源を抜いておくようにしていたので、火事などの大事には至らなかった。

 かっとなって、母を詰問する。

 「いったい何がしたいんですか、こんなことをして」

 すると母は、「だって、お腹が空いてお腹が空いてたまらないのに、あんたがいないから、私がつくるしかないでしょ」という。

 この時は、「すぐに私が作りますから」で済んだ。
 が、これが何度も繰り返される。
 となると、これは「来たか!」と思うしかない。

 というのも、ヘルパーさんたちから「いずれ過食が出るかもしれません。日頃から注意しておいてください」と言われていたからだ。

 アルツハイマー病の過食は、脳細胞の萎縮が満腹中枢まで影響することで起きるのだという。満腹感が感じにくくなる上に「食べた」という記憶が残らなくなっているために、いくらでも食べてしまうのだ。

 食事の時間以外に台所にやってきて、なにか食事を作ろうとするが、調理の能力は失われている。結果、冷蔵庫を漁り、台所を引っかき回すことになる。パンや炊いてあった御飯など、そのまま食べられるものをがつがつ食べてしまうこともあるという。際限なく食べてしまうので、放置すると体調を崩すし、排便のリズムが崩れるので、トイレを汚す原因になったりもする。

 古典的ギャグ「お爺ちゃん、もう御飯は食べたでしょ」の元ネタだが、実態はそんな悠長でも笑えるものでもない。

 炊飯器のおひつを抱え込んで、しゃもじでむしゃむしゃ際限なく食べる様子は、まるで仏教絵に描かれる餓鬼そのもので悲しくなるものでした――などという体験談をヘルパーさんたちから聞いて、「そんなことになったら大変だ」と構えていたのだが、ついに症状が出てしまった。

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