ところで、料理の味を決めるのはかなりのところ調味料である。自分が料理が下手だからこそ自信を持って言えるのだが、多少素材や調理に問題があっても良い調味料を使っているとリカバリーが効く。料理が下手ならば、むしろ調味料はこだわって良い品を使うべきだ。

 とはいえ、「コストを調味料にかけて味をよくせよ」というのも、おそらく現実的ではない。昼夜で1日1200円として、ひとり一月3万6000円。年金生活の老人にこれ以上を支出させるのは酷というものだろう。

 実は低コスト調味料を使っても、おいしく感じさせる方法はある。味を濃くするのだ。低価格の食堂やジャンクフードはだいたいこのやり方をしている。が、老人向けに「ヘルシー」をうたい文句にした宅配サービスが、味を濃くするわけにはいかないだろう。

 母が「嫌だ」と言う以上、老人向け食事宅配サービスは利用できないと、私は結論せざるを得なかった。

 結局、母が受け入れたのは、地元の老舗仕出し弁当屋による一食1200円の仕出し夕食膳だけだった。2014年12月の種子島取材の際に利用した宅配サービスである。とはいえ、これだけでもかなりありがたいことで、私が夜にかけて外出しなくてはならない時は、この夕食膳宅配サービスをずいぶんと利用させてもらった。

ヘルパーさんによって味が違うのも面白い

 2015年7月からは、昼にヘルパーさんが入って食事を作ってくれるようになったので、大分楽になった。厳密にはヘルパーの職務は、要介護者の食事作りであって、家族である私の食事は職務外となる。が、同じ鍋で作ったものを置いておけば、私と母のどちらが食べたかは分からないわけで、私も自宅で仕事をしている時は、母と一緒に昼食のご相伴にあずかることとなった。

 これを規則違反といって責めないでほしい。厳密すぎて非現実的になった規則を、現場の柔軟な運用で切り抜けている事例、と見てもらいたい。同じ家に住んでいる私と母が、ヘルパーさんの作る食事に限って別々に食べることになれば、そのほうが家族関係をおかしくする。コンプライアンス厳守を徹底しすぎると、社会をうまく回すことができなくなるのだ。

 ヘルパーさんはそれぞれ作る料理の味に特徴があった。Kさんは薄味、Wさんはそつなくどんな材料もおいしくまとめる、Sさんはやや濃い味というように。母は濃い味文化圏の出身なので、特にKさんの薄味には抵抗があったようだ。しかし、まずいわけではなくむしろおいしい上に、作った人の顔が見えていると文句も言いにくいようで、きちんと食べてくれた。