医療用ベッドに寝かされた母を、看護師数人が寄ってたかって押さえ、医師が左腕を持って思いきり引っ張る。

 「あいたたたたたた、痛い、痛い!」母が叫び、顔を歪める。

 「む? むむっ」うまくいかないようで医師は何度も引っ張る。

 そのたびに母は「痛い、痛い」とじたばたし、それを看護師さんたちが「頑張って、我慢して」と押さえ込む。医師の息が切れてくるが、どうしても骨をはめることができない。

 「……ダメだ。これはもう私ひとりの力では無理です。はめるには何人かでかからないといけない。総合病院に紹介状を書きますから、すぐに行って下さい」

 紹介状を持って総合病院まで再度タクシーを飛ばした。総合病院の整形外科には、最初の整形外科医院の医師から電話連絡が入っていた。すぐに母は治療室への案内される。「ご家族の方は、廊下で待っていて下さい」ということで、私は廊下のソファに腰を下ろしたのだが……

 マンガで、コマの外から聞こえる悲鳴を、放射状に広がるイナズマ線で表現することがある。まさにあれだ。廊下まで母の言葉にならない悲鳴が響いてくる。なかなかはまらないらしく、間をあけては、悲鳴が何度も何度も続く。これではまらずに手術なんてことになったら大変だぞ、と思っているうちに、ぴたっと悲鳴が止まり、治療室から母が出て来た。

 「3人がかりでしたが、なんとかはめることができました。2週間は腕全体をコルセットで固定して肩を動かさないでください。直ったと思ってもしばらくは脱臼しやすくなっていますから注意してください」

 ほっとした。心底ほっとした。

 と、同時に、「これは母の生活スタイルを根本から考え直さなくてはいけない」と考えていた。

階下に生活の拠点を移す

 総合病院で会計を待っている間に、ケアマネージャーのTさんに電話をして事情を話した。「想像なのですが、おそらく夜間にトイレに起きたかなにかで転倒したのではないかと思います。それで変な手の付き方をして左肩を脱臼してしまった。本人は忘れてしまったのでしょう」

 Tさんは機敏に反応した。

 「わかりました。早急にレンタル事業者さんに連絡を入れて介護用ベッドを手配します。今晩から必要ですね」

 この時、私は決心していた。