私にかかるストレスがじわじわと増加しつつあった2015年2月、やっと母を病院に連れて行くことができた。本人は「自分はなんともない」と言い、しきりと不満を漏らしたが、「とにかく一度診察を受けておきましょう」とひっぱるようにして連れて行った。

 脳神経外科で主治医となるA医師に症状を説明する。すぐに長谷川式認知症スケールという質問によって記憶力を測る試験があり、翌週にはアルツハイマー病かどうかの検査が入った。

 一口に認知症といっても、いくつかの種類がある。

 まず、脳への血流が細くなったり途切れたりして起きる脳血管性認知症という病気がある。これは早期に脳への血流を改善する治療を行うことで回復する可能性がある。

 脳にレビー小体という特殊なたんぱく質が蓄積して起きるのが、レビー小体型認知症だ。初期に幻視や妄想、体を動かしにくくなる運動障害が出るのが特徴で、残念ながら現在のところ根本的な治療方法はない。

 そして認知症の中でも一番ポピュラーなのが、アルツハイマー病。脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することで脳神経細胞が萎縮して発症する。記憶と思考といった認知の能力が徐々に衰え、感情的になるといった人格の変化も起きる。アルツハイマー病も、現状では根本的な治療法はない。

なんとかなるさ、もう少し頑張れば

 アルツハイマー病の診断には、シンチグラフィという手段を使う。血管中に放射性同位体を注射して、発生する放射線を使って脳内の血流を調べる手法だ。CTやMRIによる脳の萎縮状態の観察と併用し、最終的にアルツハイマー病かどうかを診断する。

 「アルツハイマー病ですね」というA医師の診断を、私はあまり驚かずに受け止めた。ここしばらくの母の行動を見ていれば、アルツハイマーかどうかはともかく、認知症であることは明らかだったからだ。「ああ、やっぱりそうか」という感慨と、「さあ、これからどうしようか」という思いとが、胸中を交錯した。

 ――なんとかなるさ。
 私はそう思おうとした。アルツハイマー病は治らない病気だが、それでもなんとかなる。なんだかんだでここまで半年ばかり頑張ってきた。これからだってなんとかなるだろう。もう少し頑張ればいい。もう少し。

 しかしながら、チリも積もれば山となる。
 ひとつひとつは大したことがない、ごく普通の生活の中のストレス。それが、いっぱいいっぱいのコップにぽたりぽたりと落ちてくるしずくになるのである。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「介護生活敗戦記」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。