後に、自宅に公的介助を入れて、ケアマネージャーやヘルパーさんなどの福祉関係者が出入りするようになってから、この話をしてみた。すると皆、一様に大きなため息をついて「ええ、通販はほんとに現場では大変な問題になっているんですよ。どこもとても困っています」と言うのであった。
年寄り、特に女性は通信販売が大好きだ。使い慣れている人が多い。通販は便利であることは間違いない。が、使い慣れた通販も自分が認知症になってしまうと問題含みとなる。
特に私が問題にしたいのは、「月ごとの定期購入」という契約形態だ。テレビの通販番組をよくよく見ると「お得で便利な月ごとの契約」というような言い方で、消費者を誘っている。
通販事業者からすれば、継続的に買ってもらえれば先々の売り上げの予測もつくし、ビジネスモデルとしてはすばらしい。が、買う側が毎月、送られてくる商品をきちんきちんと消費するとは限らない。事業者によっては「申し出があれば、商品配送を1カ月単位で止めることができます」というサービスをしているところもある。しかし認知症になってしまえば、消費者の側がきめ細かく商品の購入量を調節することはできない。気力が萎えるので、商品が届くと「面倒臭いからとりあえずお金は払っておけ」ということになるわけだ。
どうにかならないか、定期購入契約
厳しいことを書く。認知症患者及び認知症予備軍の老人への通販商品の定期購入契約は、通販事業者にとって合法的な押し込み販売の手段になってはいないだろうか。
消費者の権利は法律で保護されているが、それは消費者が権利を行使する能力を持っていることが前提となっている。
購入するのが、認知症、またはそれに近い状態で知的能力や気力が低下した老人だったらばどうなるか――さして注意することも疑うこともなく「便利ですよ」と言われて定期購入契約に同意し、送られてくると解約の方法が分からないので律儀に代金を払ってしまうのではないだろうか。
通販事業者が悪意を持っているとは思わない。だが、願わくば自分のビジネス形態を省みて、定期購入契約を見直して欲しいと切に願う。認知症の老人の家計にとって重大問題だし、かつ介護をする者にかかるストレスにも大きな影響を与える問題だからだ。
記事掲載当初、本文中で「通信販売にもクーリングオフが可能」という趣旨の記述をしていましたが、この部分を削除し、お詫びして訂正します。なお通販でのクーリングオフに関しては、「クーリングオフ類似制度」と呼ばれるものがあり、国民生活センターのガイドをまとめますと、以下のようになります(出典はこちら)。
・「クーリング・オフ(無条件解約)」は、訪問販売や電話での勧誘など、不意を突く形のセールスから消費者を守るためのものであり、インターネットなどで「検討・確認」ができる場合はその対象にならない。
・通販業者が返品・交換ルールを定めている場合は、その範囲内で対応してもらえる。
・通販業者が返品ルールをきちんと理解できる形で掲載していない場合は、商品到着から8日以内に消費者の送料負担で、無条件で返品が可能(2009年12月から。こちらが「クーリングオフ類似制度」と呼ばれる)
記事本文は修正済みです。 読者の皆様からのご指摘に感謝いたします。[2017/03/23 12:00]
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