改めて台所、洗面所、そして母の化粧品入れなどを調べる。すると、ひとつの例外もなく、該当商品がごそっと山になってどこかしらに突っ込んであった。要するに、母は契約したはいいが、届くと使わずにしまい込み、代金だけは律儀に払い込んでいたのである。ため息と共に、通販事業者への電話を入れる。全てが「月ごとの定期購入契約になっています」という返事だった。

 その都度私はー解約を申し入れ、自費で負担して返送した。ああ、いいだろう、それが認知症というものだ。それでも、ひとつひとつ潰していけば、いずれはすべての契約を解除することができるだろう。そう思っていた。

 確かもう3月になっていたと思う。暖かな春先のある日、電話の前に怪しいメモを見付けた。母の文字で、電話番号と商品名とが書いてある。つい最近、契約を切って返送した商品だ。

「知らない、買ってない」を何度も繰り返す

 何が起きたかを察し、かっとなったが証拠がない。
 現物が届くまで自制して待つ。数日後、その商品が送られてきた。

 「一体あなたは何をやっているんですか!これは一杯余っているから契約を切ったでしょうが!」

 もちろん母は覚えていない。「知らない。私そんなもの買っていない。余っているなんて知らない」の一点張りだ。知らないのではなく、忘れたのである。何しろ山ほどある在庫を目の前に見せて「これは取り寄せるのをやめましょうね」と説得したばかりだったのだから。

 母は、テレビの通販番組を観てメモを取り、自分で電話をかけて商品を購入していたのである。しかも、またもや月ごとの継続契約だった。通販事業者にかけた電話口で「老人がやったことなので」と言い、契約を切って返送手続きを取る。

 こんなことが2015年の春先、何度も繰り返された。
 そのたびに言い合いとなり、私はどなり、母もどなり、2人とも消耗した。

 分かっている。怒鳴ってもどうしようもない。母は記憶が繋がらなくなっており、何度も何度も同じことをしてしまうようになっている。が、私はそれに付き合って、掘った穴を埋め戻す作業を繰り返さねばならない。徒労感は大変なものだ。