川内:老化や認知症などによって、その安全な基地が崩れていってしまう、安心して寄りかかれる場所がなくなっていく。これに直面することが、男性の心理にものすごい負荷をかけるそうなんですね。気持ちがかき乱されるので、実の母親に対して客観的に、とか、冷静に、とか思っても、非常に難しいところがある。

Y:そうか……何で自分自身がこんなにイラつくんだろう、こんなきつい言葉をぶつけてしまうんだろう、と思っていたのですが、自分の安全圏と思っていたものが崩れていくのを見て、「そうじゃないだろう、きちんとしてくれないと(俺が)困るんだよ」というような、悲鳴を上げているみたいなものなんですかね。

安全な基地の崩壊に、息子は冷静でいられなくなる

川内:まったくその通りです。男性が母親を介護する場合、それを知っておくことが重要です。でないと、罪悪感に自分が押しつぶされてしまいます。

Y:個人差はあると思いますが、女性が母親を介護する場合はどうなんでしょうか。

川内:母親に対して同姓の娘は客観視できる可能性が高いです。永遠に安心な基地、ではなく「お母さんも一人の女」だと。

Y:なるほど。でも男性が「母さんも一人の女だ」と捉えるというのは……悪い例ですが、例えばお母さんが男性と不倫して家を出ていく、とかでもあれば、ふっと呪縛が解けたりしそうですよね。

川内:実はそうなんです。でも、ことほどさように母を「一人の女性」として捉えるって、すごく男にとっては難しい。母親の側、例えば松浦さんのお母様も、「母」という鎧を着て、松浦さんという息子さんにかかわっているわけです。

 当然「母」じゃない「私」もお母様の中にはいるわけですね、でもそれを息子にさらす、弱い自分をさらけ出すというのはやっぱり辛いことなので、ぎりぎりまで防衛線を引こうとする。だから、介護されることにも抵抗感が強い。逆に言えば、介護者である子供から見て「素敵なお母さん」であればあるほど、介護という状況がきっかけによってそうでない部分が見える。そして、より大きな落差に苦しむことになってしまう。

「母は出来の悪い私をいじめているんです」

松浦:それは川内さんのご経験からもそう思われますか。

川内:はい。今、企業さんに出掛けていって個別相談をしますと、女性の方ももちろんいらっしゃるんですけど、男性の方が相談に来られる方がとても多いんです。そして、いま松浦さん、Yさんがおっしゃったようなお話を聞くことがとてもとても多い。「自分は母に対して、何でこうなんでしょう」と。

 でも、そこまで気付けている人はまだいいんです。いや、まだいいというのはよくないですけど、もっと手前で、「あの人は本当に私を苦しめようとしているんですよ」と言う方もたくさんいらっしゃいます。

Y:えっ、「あの人」って、お母さんのことですか。