川内:松浦さんの妹さんから「兄が介護している母を殴ってしまった」と、ご一報を受けて、田村さんはすかさず「2週間ショートを使いましょう(ショートスティ=介護施設への短期宿泊の形で要介護者を預けて、介護者との距離を置く)」と提案した。これは言える人と、言えない人がいるんですよ。

Y:なぜ言えないのでしょう。

川内:すごく嫌な言い方をしますが、調整するのが面倒くさいですから。

Y:そのまんまですね。でもそれって……

川内:そうです。ケアマネージャーという仕事は、本当は調整を面倒がったらだめなんですよ。これはモラルでもありますが、そもそも「ケアプラン作ってなんぼ」の世界であるので。

松浦:ケアプランの作成が、ケアマネージャーの本務ですからね。

川内:そうです。一生懸命やるべきなんです。でも、「ショート2週間取る」といっても、ご存じの通り、施設はどこもいっぱいで、急に入れてもらうのは本当に大変です。事情をいろいろなところに説明せねばなりませんが、まず「これはもう緊急だから、とにかく使わせてもらいたいんだ」という、その思いがないとできないことなんですよね。

Y:「空いていますか」と電話するだけじゃ、入れられない。

川内:このあたりの事情をお話しするのは難しい。一生懸命頑張っておられる多くのケアマネさんに「自分のことか」と勘違いされて、傷つけてしまうのが心配なのですが……。

Y:まず、調整自体がものすごく大変だ、ということですよね。

川内:はい。地域にもよりますが、「空いていますか」という普通の電話をするだけではまず無理です。そういう状況だと分かっていて、でも電話を掛けるだけでも実は相当にストレスフルなことなんですよ。だから、妹さんが田村さんにかけられたような電話があっても「大変ですね」で終わることが多くなってしまいがちです。もしかしたら、「大変ですね」すら、言わないかもしれない。それで何か要望を出されるのが面倒くさいから。……すごい嫌な話ばかりでごめんなさい。

松浦:いや、大変興味深いです。

ケアマネが動かなければ、家族はどうする?

川内:何も行動を起こせないというケアマネさんも中にはいるんです。なぜかといえば、頑張ってショートステイを押さえられたからといって、自分の報酬が変わるというわけでもない。

Y:ないんですか。

川内:ないです。田村さんは、自分の手間を知りつつ、「ここは松浦さんとお母様を物理的に引き離さないと、松浦さんが持たない」とすぐさま腹をくくって、「ショートに入れましょう」とすぱっと返事をして動いた。なので、すばらしいケアマネだと驚いたんです。

 それだけじゃないですよ。松浦さんにちゃんと納得できるような話の仕方ができている。たぶんデイサービスの調整したときも、お母様をしっかりサービスにお誘いしていただけるようにいろいろな申し送りを、見えないところでされていたと思うんです(「『イヤ、行かない』母即答、施設通所初日の戦い」参照)。介護者を支援する、ということを、本当に心がけている方だろうと、様々なエピソードから推測できるんですよね。

松浦:ちなみにですね、もしケアマネさんが「大変ですね」と言うだけで自ら動くことをしなかったなら、家族の側はどうなってしまうのでしょうか?

(次回に続きます)

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