松浦:終わった後にですか。
川内:はい。もう、あれは「もう、何でだよ」と……。
Y:松浦さんは、ご自宅で自分での介護を終えてお母様を施設に入れられたときには「解放された」という気持ちになったと言っていましたが。
川内:もう自分の役割が終わった。自分のやっていること、生きている目的、目標が「お母さんの介護」だったと。それが終わった、ということが一番大きかったのでしょう。一方で、もう1つあるなと思ったのは、確かに精神的な部分での介護に対する依存というものもあったと思うんですけど、その方が経済的に生きていける状況だったのか、ということもあったかなと思うんです。50代ぐらいの方ですが、介護のために離職して、お母様の年金で生活されていらっしゃって。
松浦:母親が亡くなってしまうと、年金は打ち切られますね。
Y:そうか。自分の生活とお母さんの介護が一体化していた。介護が終わったら、新しい生活を、仕事を見つけなくてはいけない。
川内:例えば生活保護とか、もう1回再就職していくまでの支援制度などを利用する術もあったと思うんです。きっとそこまでは思い至らず。「これからどう生きていこう」という負荷が掛かったときに、「生きていく」という選択ができなかったんだろうなと。そう思うと、これはちょっと、何とかできないものか、と。そんなこともあって、この仕事をやらせてもらっています。

介護にはいった男性が踏みやすい地雷
Y:松浦さんは、お仕事を辞めなくてほんとうによかったですね。
松浦:いや、会社員じゃないから、というところがあるわけだけど。
川内:そういう意味で言うと、松浦さんの本を読ませていただいたときに、実際に介護をされている方々の、特に男性の方が抱えてしまいがちな、悩みだったり、思い込みだったり、ついやってしまわれる行動を。ごめんなさい、本当に失礼な言い方をして申し訳ないんですけど、ここまでちゃんと地雷を踏んでいかれる、というか、経験されて、しかもそれを客観視して「本来ならこうすればよかった」ところまで書かれているのが、個人的にも役立つし、社会的にもすごく有用な本だと思ったんです。
松浦:我ながら相当要領が悪かったというか、頭が悪かったというか。
Y:介護の地雷処理班というか。
川内:モノを書くお仕事をされていることもあると思うんですけど、文字にしてとらえていくということは、男性向きの技術なのかもしれません。これは自分の経験に基づく印象ですけれど、女性は、同じ悩みを持つ人とわーっと話して、明け透けに「あの人、早く死んじゃえばいいのに」くらいのことを言いながらに打ち解けていって、自分の気持ちにかかるストレスを消化していくのが上手です。一方、男性は、仕事で鍛えたロジカルな部分だったりマネジメントの技術を使って介護に向かっていくということが、1つ方向性としてあるんだろうな、と思います。松浦さんがロジカルにご経験をまとめたことで、そのいい手引きになるんじゃないかと。
松浦:ありがとうございます。でも自分の対応や反応が、そんなにロジカルだったとも思えないんですが。
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