量の拡大を追い過ぎた?

今回、ヤマト運輸はアマゾンから非常に安い価格で配送を請け負っていたようです。それはなぜだと思いますか?

都築:明確な理由は分かりません。しかし、安い荷物でも大量に引き受けることで儲けが出ると考えたのかもしれません。もともと、宅急便というのは、荷物の密度を上げる「密度化」を目標としたサービスなんです。つまり、取り扱い個数を増やせば、ネットワークの路線網を走る車の荷台の密度が高まります。すると一個当たりのコストは下がって利益が増えるというわけです。荷物が少ないと赤字ですが、どれだけ荷物を集めるか、密度化が黒字のカギということです。

 宅急便はその理論に沿って、集配車により多くの荷物を積もうと、量を追ってきました。密度化を唱えたのが小倉昌男さんであり、僕も小倉さんと一緒にやっていましたから密度化を推進してきました。密度化は、いわばヤマト運輸では小倉イズムを体現したものなんです。けれど、現状は、増えすぎた荷物に対応できなくなっている。宅急便も始めてから40年経っているんです。環境も変化して、生活態様、交通事情、天候異変など、以前にない状況が生まれています。密度化すれば黒字になるという従来の考え方では、今後はうまくいかないよ、ということです。
 密度化が間違っていたというわけではありませんが、本当はもっと早く、修正すべきだったと思います。

今回、ヤマト運輸は値上げに踏み切り、荷物を8000万個程度減らして、宅急便事業を見直そうとしています。

都築:サービスの質を守るには、それがいいと思います。むしろ、なぜ、もっと早く踏み切らなかったのか。27年前、実際に宅急便を始めて14年後、私が社長をしていたとき、宅急便の数が増えすぎて現場が追い付かなくなるという経験をして、私は値上げに踏み切りました。

社長を辞める覚悟で小倉イズムを壊そうとした

まさに今回と同じですね。

都築:現在もそうですが、ドライバーを増やそうとしたけれど、好景気だったこともあり、人手不足で、全然、採用が追いつかない。増え続ける需要にドライバーの数が追い付かず、長時間労働に対して現場から不満も出ていました。十分な人手がなければ、翌日配達が守れないなど、サービスの品質が保てなく可能性もある。ドライバーが疲れていたら、交通事故の危険だってあります。
 そこで私は値上げを決断しました。値上げにより宅急便の取り扱い個数をいったん減らそうと決めた。私は、小倉イズムを壊そうとしたんです。

反対はありませんでしたか。

都築:値上げにはみんな反対でした。当時、運賃を値上げするには運輸省(現・国土交通省)の認可が必要でした。僕は一気に1個100円の値上げをすると決めていました。身近なサービスだけに、20円とか、30円とか、ちょこちょこ上げるのは逆によくないと考えたんです。運輸省からは宅急便は公共輸送、公共機関だからと値上げについていろいろ言われましたよ。しかし最終的にはドライバーの長時間労働を是正するためだという理由で認めてもらいました。けれど、一番反対したのが、小倉さんだったのです。

なぜ、小倉さんは反対されたのでしょうか。

都築:実は当時、宅急便の取り扱い個数は約4億個でした。しかしライバルも多く、特に日本通運さんが手掛けていたペリカン便が追い上げていました。小倉さんは、うちが値上げしたら、ペリカン便に荷物が流れることを心配していました。シェアを守ることが大事だと考えていたんですね。

 そこで僕は小倉さんに言ったんです。今、世の中が変わってきたんですと。量を追っていたら、荷物の方がどんどん増えてしまって、翌日配達も難しくなっている。大事なのは、宅急便に対する信頼を守ることではないですか、と。いったんは値上げして荷物は減るかもしれないけど、うちもドライバーが足りないのだから、ライバルだってきっと厳しい。向こうもきっと値上げしてきます。そしたら、品質に優れたうちにお客さんは戻ってくるはずだと。

小倉さんは納得されたんですか?

都築:最終的にはね。「運賃値上げっていくら上げるんだ」と、聞かれたので「100円上げます」と言うと、小倉さんはびっくりしちゃって。でも1回きりの値上げだから、必要な金額で実行するべきだと説明し、踏み切りました。

 もし値上げがうまくいかなかったら僕は社長をやめる覚悟でした。結果的に値上げはプラスに働き、ドライバーの確保や次の成長のための設備投資の原資にすることができました。予想どおりペリカン便も値上げをして、翌年の宅急便の売り上げは前年比109%と伸びたのです。