
1929年(昭和4年)東京生まれ。慶応義塾大学卒業後、大和運輸(現ヤマト運輸)に入社。路線部営業課長時代、営業部長に着任した小倉昌男氏と出会い、その後35年にわたり共に働く。一方、昌男氏の父で創業者の小倉康臣氏からも信頼を得ていた。昌男氏とともに宅急便事業に取り組み、全国ネットワークへと育て上げた。87年から社長、91年から会長、93年に相談役に就任し95年、昌男氏とともに退任した。著書に「どん底から生まれた宅急便」(日本経済新聞出版社)。
サービスの後退は信頼の失墜につながる
一連のヤマト運輸に関するニュースをお知りになって、都築さんはどのようにお感じでしたか?
ヤマト運輸元会長・都築幹彦氏(以下、都築):まずひとこと言っておきたいのですが、日経ビジネスからの取材依頼を最初は断りました。でも、ここは会って話すべきだと腹を決めました。ヤマト運輸の歴史や経営者の考え方を伝えるべきだと思ったからです。
僕自身はサービス残業、つまり残業代の未払い問題については新聞で知りました。それでね、経営幹部に強く言いました。「君たちは恥ずかしくないのか」とね。
直接、おっしゃったのですか?
都築:ええ。経営幹部たちにね。ヤマト運輸は2019年に創立100周年を迎えます。その前にこのようなことになって。今回はミスしたよな、と。でも、経営幹部は自らの失敗を認めて、減給などの処分を発表しています。そういう点で言えば、経営陣はきちんと責任を取ろうとしています。ただ、手を打つのが遅すぎたと思っています。
都築さんからご覧になって何が一番問題だったのでしょうか。
都築:一番の問題は、お客さんの信頼を損ねたことです。一度、当日配達をやりますと言ったのに、できないからやめます、というのは、お客さんから見たら認められないですよ。やると言ったのは、ヤマトじゃないかと。一度始めたのにやめるのはサービスの後退です。これは、最大の信頼の失墜ですよ。こういうミスはこの先、もう絶対犯してはいけない。
都築さんは、ヤマト運輸の現場の状況をご存じだったのですか?
都築:現場のドライバーから大変だという話は聞いていました。そもそもね、当日配送にはかなり無理があると思っていました。宅急便は全国翌日配達を基準につくったんです。それを当日配送にしたら、ドライバーを酷使することになる。ドライバー泣かせの配達方式ですよ。しかも6つの時間帯に刻んだ時間指定の配達もある。そもそも事前に十分に検証してから始めたのか疑問でした。
しかも今は、夫婦共働きの家が多いでしょう。特に通販を利用する人はね、夫婦ともに帰りが遅い人も多い。ドライバーからすると、夕方6時に届けても留守で、ひどいときには2回も3回も行く。中にはエレベーターのないマンションの4階のようなお宅もあるでしょうし、エレベーターはあっても高層階に何度も行くのは大変です。届け終わるのは夜の10時、といった現場の苦労話を聞いて、どうなっているんだと思っていました。
私が現役の頃から、届け日を指定してもらうようなサービスはありました。宅急便は翌日配達が原則なので、例えばゴルフ場でプレーした後にゴルフセットを自宅に送る場合、お客さん本人の帰宅に合わせて翌々日に届くようにするとか。けれど、当日配送とか、2時間ごとの時間指定などは、ドライバーにとって相当な負担になりますよ。
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