「羽田クロノゲート」などはネット通販のためではない

「羽田クロノゲート」や「厚木ゲートウェイ」などの大型物流施設に、総額2000億円を投じてきました。「止まらない物流」を掲げ、24時間365日稼動させることで、厚木・中部・関西の幹線輸送を多頻度化し、ネット通販などで当日配達が可能な地域を拡大するという狙いがありました。しかし、大型物流施設が止まらなくなり、幹線輸送を多頻度化しても、宅配の現場の仕事の仕方は基本的には変わりません。このギャップが、現場の負荷を高めたということはありませんか。

山内:今までの状況でいくと、ネット通販が増えると幹線輸送も増えるというイメージが強かったと思うのですが、ネット通販の大手は地域ごとに拠点を持っていますから、基本的にその地域の中で荷物が動くことが多いと思います。現在、我々が幹線輸送のところに成長の可能性があると考えているのは、企業間(BtoB)物流の分野です。BtoBの分野では、やはり流通在庫の課題がありますので、多頻度で幹線輸送をすることで、流通在庫を減らすことを支援していきたいと思います。

 ネット通販のために大型物流施設があるとは思わない方がいいと思います。我々は今後、成長領域としてこのBtoB物流に期待をかけています。ここでの物量は増えていくでしょう。その時、厚木、中部、関西に作ったゲートウェイ間の幹線ネットワークが生きてきます。

2017年3月期の営業利益の目標を900億円と掲げていましたが、この10年ほどは600億円台が続いていました。目標と現実のズレはなぜ、生じていたのでしょうか。

山内:ネット通販の想定以上の伸びや税制の変化といった外的要因は、中期経営計画を作成した時には織り込んでいませんでした。また、国際物流やBtoB物流などを推進する「バリュー・ネットワーキング」構想を掲げていますが、それに一部、遅れが生じています。

BtoB物流がもっと伸びると見込んでいたのでしょうか。

山内:BtoB物流は、お客様に既存の仕組みから移行していただくことになりますので、1年、2年という期間が必要になります。想定以上に、成果を上げるのに時間がかかっています。

BtoB物流の世界では、それぞれの顧客向けにカスタマイズした物流システムを提案することが重要とも言われています。宅急便のネットワークの上でBtoB事業を展開することに限界はありませんか。

山内:我々はプラットフォームを作り、業界全体にとってより効率が上がるような仕組みを提供していきたいと考えています。特定の大手顧客向けのシステムだけを作ると、その顧客にはプラスになるけれども、ほかの同じ顧客、特に中小の企業の顧客には使いにくいものになってしまいます。我々は基本的に、特に中小企業のお客様が使いやすいプラットフォームを作っていきたいと考えています。

現時点で全体の荷物の中でBtoBの荷物が占める割合はどれぐらいですか。

山内:宅急便全体だと個人から出る荷物が全体の1割で、法人から出る荷物が9割です。9割のうちBtoC(ネット通販などの企業から個人への荷物)が5割、BtoBが4割ぐらいです。そのうち、バリュー・ネットワーキング構想で獲得を狙っている荷物は、まだ少ないのが現実です。

BtoB物流を軸としたバリュー・ネットワーキング構想の実現が遅れる中で、羽田クロノゲートやゲートウェイの稼働率を上げていくために、アマゾンなどのネット通販の大口顧客と契約して物量を増やそうという判断が働いたということはありませんか。

山内:それは全然ないですね。それをやったら終わりです。羽田クロノゲートなどは、付加価値の高い荷物の取り扱いを増やすことに意味があるわけですから。

信頼を失いかねないという危機感がある

宅急便は、そもそも新たな需要を創造してきた歴史でした。今、ネット通販の台頭で、経営のあり方に変革が求められているという認識はありますか。

山内:宅急便を始めてから、ゴルフ宅急便、スキー宅急便、クール宅急便など、荷物を出す側に経営の主眼を置いてきたという歴史があります。しかし、これからはインフラとしての宅急便の信頼性を高めることに注力すべきです。

 ここへ来て、今まで築き上げてきた信頼が、場合によっては弱まってしまう事態が起きかねないという危機感を抱いています。そのため、信頼を支える社員の働き方に経営の軸足を持ってくるんだということを、改めて宣言をしたのです。

「ここへ来て」という意味は、今回のサービス残業の問題のことでしょうか。

山内:そうですね。もう1回、環境の変化にきちっと対応して、信頼される良いサービスを持続できる現場を作り出さなければなりません。それを明確に行うために必要なのは、やはり人なんですね。社員が生き生きと働ける形にもう1回に戻す必要があります。従って、そのためには取り扱う荷物の数量を1回落とさなければならず、それにご協力いただけるようなお客様に対応をしていきます。

 価格だけで判断するようなお客様は、離反しても仕方がありません。まずは、本来あるべき形にもう一度、立ち返る。そして、バリュー・ネットワーキング構想などで新たな成長分野に挑戦していきます。新たなテクノロジーを駆使して、輸送量も拡大していきます。取扱量はずっと抑えっぱなしというつもりは、全くありません。

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 物流現場の労働負荷が高まっています。
 ネット通販が急増する一方、働き手が増えず、物流インフラを支えることが限界に近づいています。賃金や労働環境はなかなか改善しません。こうした物流現場の実態が分からなければ、社会的な理解は進まないのではないでしょうか。

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