シェアを意識した価格戦略が残っていた

アマゾンジャパンなど大口顧客に対しては、大幅な値引きをしています。この経営判断には、どのような背景があるのでしょうか。

山内:歴史的にシェア拡大を意識したときの価格戦略が残ってきてしまったという側面もあります。これは今、切り替えようとしているところですが、以前は荷物を大量に出してくださるお客様に対して大きな値引きをするというのが、運送業の一つのパターンになっていました。

 これまでは、荷物を集荷する部分、幹線で輸送する部分、配達する部分と大きく分けて考えたときに、それぞれのコストの比率にはさほど大きな差がありませんでした。むしろ、一個一個荷物を集めに行くことのコストが、結構掛かっていました。そこに対する値引きというのは、数量をどれぐらい出していただけるかによって変動するわけです。

 だけど、今は配達のところにかかるコストが、(再配達などで)どんどん上昇してきています。コスト構造そのものが、時代とともに変化してきています。それに合わせて、プライシングのあり方も、荷物が大量に出るから割引率が高いという従来の考え方と違う形に、切り替えていかなければいけないと思っています。

 配達部分のラストワンマイルを維持するコストは、もちろん人の問題でもありますし、燃料費の問題でもあります。さらに、不在率の問題や時間帯の問題など、ここには、いろいろな要素があります。これらを見て、結果的にトータルプライシングというものを考えていかなければなりません。プライシングのやり方も時代とともに変えていく。そういったところに来たということですね。

個人間で荷物を送り合う宅急便の扱いが大きかった時代と比べると、大量の荷物を出してくれる大口顧客は集荷の効率が良いので、運賃を割り引くという戦略をとっていたのですね。

山内:そうですね。宅急便も初期の頃はそういう形でした。あとは、競争環境において、(宅配事業に従事する会社が)30数社もあった時代がありましたから、シェア拡大を優先的に目指そうという判断の時には、大量に出してもらうことでシェアを上げるという考えも当然あったと思います。しかし今、我々はむしろシェアを追うことよりも、まずはインフラとして多くのお客様に良いサービスを提供したいと考えていますし、それを実現するための投資を行ってきました。

今回、宅急便の総量を抑制する方針を打ち出しました。まさにシェアを追わないという明確なメッセージであると思いますが、経営のスタンスとして、シェアを追うという意識を持っていたのはいつ頃までですか。

山内:これは具体的に答えるのが非常に難しいと思うのですが、競争環境があった時ですよね。もうちょっと言うと、ライバルがそれぞれお互いにシェアを伸ばそうとしていた時です。例えば、かつて日本通運さんが手掛けていたペリカン便と日本郵便さんは、今でこそ統合していますが、それぞれまだ分かれていて各社が市場を取り合っていた時代はそうだったと、捉えていただくといいと思います。

例えば、日本郵政が上場を控えていたタイミングあたりで、なりふり構わず宅配のシェアを取りに来るのではないかというような警戒感は、ヤマトにありましたか。

山内:上場の頃はもうないですね。それまでは、(日本郵政が)成長を見せようとするがゆえに、シェアを伸ばすということに重きを置いているように感じたこともあります。そういった意味では、市場価格が乱れ始めていたということがあったものですから、我々はそれとは一線を画そうというふうに思って動いていました。

 コストを抑えることで競争力を得たいというお客様が、より安いサービスを選ぶのは仕方がないことです。一方で、より良い商品やサービスを提供することで事業を成長させていきたいというお客さまもいらっしゃいます。

 我々は今、後者のお客様に対してきちんとサービスを提供させていただいておりますし、前者のような志向のお客様に対しては、我々は一定のところまでしかサービスを提供できないというお話を申し上げています。むしろ、そうしたお客様は離反をされていっても仕方ないだろうと思っています。

 我々は良いサービスが長期にわたってお客様に受け入れられ、結果的にヤマトも成長していくという、揺るぎないブランドの信念があります。これが我々ヤマトとしての姿勢ですし、それに基づいた対応をさせていただきたいのです。