医療事故調査制度の開始から1年が経過した。初年度の実績からは、制度の対象事案であるのに第三者機関へ報告しなかったり、逆に必要がない事案を報告した例が見られるなど、制度への理解が不十分な実態が明らかになった。


 医療事故調査制度は、「医療に起因する予期せぬ死亡」が発生した場合、第三者機関である医療事故調査・支援センターに報告した上で院内調査を行うことを全国の病医院に義務付けるもの。2015年10月にスタートした。院内調査の結果は病医院が報告書にまとめてセンターに提出し、センターはその情報を分析して再発防止策を検討・公表、医療安全の向上に結び付ける。

 制度開始からの1年間に報告された医療事故の件数は388件で、うち362件は病院の、26件は診療所の事案だった。診療科別では外科が69件と最も多く、それに内科の56件、整形外科と消化器科の34件が続く。事案の発生からセンター報告までに掛かった期間は平均31.9日で、報告から院内調査報告書を提出するまでの期間は平均118.5日だった。

報告書を渡すように強く求める遺族も

 制度開始1年で見えてきたのは、医療事故調査制度が医療現場に正しく理解されていない現実だ。制度が対象にする事案は「医療に起因する予期せぬ死亡」で、医療者の過失の有無は関係ない。だが、関係者によれば「過失がないから」という理由で、センターへの報告も院内調査も行わなかった医療機関が複数あったという。

 一方、その逆のケースも見られた。院内調査をサポートする支援団体の話によると、「死亡した患者の遺族がクレームを付けてきたから」という理由で、予期せぬ死亡ではなかったにもかかわらず、センターへの報告と院内調査を行った病院があったという。

 医療事故調査制度のスキームで院内調査を行う場合、その費用を補償する保険を日本医師会が用意している。また、クレームを付けてきた遺族が報告書の内容に納得すれば、病院がその後の交渉のために弁護士を立てる必要もなくなる。こうした点に経済的なメリットを感じた医療機関が、本来は必要ないセンターへの報告を行ったのだという。

 だが、医療事故調査制度の目的は、事故原因を分析し再発防止策を検討することで、医療安全を向上させることにある。上のケースは明らかに、医療機関による制度の目的外使用といえるだろう。

 これに対し、医療事故で死亡した患者の遺族が、制度を目的外使用する例も出てきている。制度開始前から医療機関には、「院内調査の結果報告書が訴訟に利用されるのではないか」という懸念が強かったが、それが現実のものとなりつつある。

 ある病院では、不幸にも起きてしまった医療事故について、医療安全に資する報告書を作成しようと丁寧に院内調査を実施して結果を遺族に説明した。しかし、遺族は「どう補償してくれるのか」の一点張りで、報告書を渡すよう強く求めたという。結局、この病院は遺族の求めに応じて報告書を渡したが、それが訴訟の材料として使われるのではないかと院長は心配な日々を過ごしている。

 こうした動きに歯止めを掛けるべく、全国医学部長病院長会議の「大学病院の医療事故対策委員会」は9月、センターに以下の申し入れを行った。「現に事故調査報告書が係争の具として利用されることが明らかな場合には、医療安全の確保という制度の目的に鑑みて、貴機構(センター)において今回の法に規定される作業は行わない。係争の手段として行われる事象は全て、この法の埒外(らちがい)にて処理されるべきである」。