前編では、日経メディカル Online医師会員へのオンラインアンケートの結果から、思わず別の意味に取ってしまいそうな言葉や、不快感や腹痛といった一般的な症状を表す多彩な方言を紹介した。病態の理解の妨げになることもある方言だが、その地域の人にとっては馴染みの深い言葉だ。アンケートには、「震災で避難して来た方の出身地の方言で話した時、ありがとうと言われ自分が涙ぐんでしまった」(一般内科、50代)という声も寄せられた。

 「鹿児島県で、年配の方の鹿児島弁や奄美の方言(シマグチ)は理解できませんでしたが、大体『通訳』が同席してくれます。逆に、少しでもいいから当地の言葉を使うと喜ばれます」(一般外科、50代)というように、使える場合は積極的に方言を使う人もいる。「患者さんとは、地元の言葉でお話するのが、医者の嗜みなのではないかと思っちょります」(一般内科、50代)。「地元の出身ではありませんが、地元の高齢者には、なるべく地元の言葉をまねてしゃべるように心掛けています」(代謝・内分泌内科、40代)。

 そこで、「自身は診察時、標準語と方言のどちらを使うことが多いか?」と尋ねてみたところ、「標準語を使う」と答えた人が7割弱を占めた(図1)。方言を使うのは、「関西出身なので、関西弁での診察で問題はありません」(一般内科、60代)というように、自身が生まれ育った地元で診療している場合が多そうだ。

図1 診察時、標準語と方言のどちらを使うことが多い?
図1 診察時、標準語と方言のどちらを使うことが多い?

 「今は兵庫県と岡山県の県境の病院に勤務しているが、関西弁でも岡山弁でもなく標準語で仕事をすることが多い。命に関わる病態に直面することが多いので信頼関係を築くためには標準語が一番信頼を得やすいと思う」と言う50歳代の脳外科医は、一方で「初めての土地では方言に惑わされることが多いが、その土地に暮らしてみると、病態を理解しやすい、伝えやすい道具となる」ともコメントする。自身が診療する地域でよく聞く方言は早く覚え、ときには微妙なニュアンスを表現するために使ってみてもいいのかもしれない。

●部位編:なぜかいろいろある「膝」の言い方

・青森県三戸郡で「なづぎ」をぶつけたみたいなことを言われましたが、どこをぶつけたか分かりませんでした。看護師さんが、「おでこ」のことだよと教えてくれました。(救急科、30代)

・山梨県甲府では、膝のことを「もも」さんと呼びます。「もも」って腿だと思いますよね。(一般内科、50代)

・富山県で「ケベス」というのは「かかと」のことでした。(整形外科、60代)

・長野県で膝のことを「おぼさん」と言われたことが印象に残っている。(総合診療科、60代)

・奈良県の吉野では、「ひざ」を「ひだ」と言う。(整形外科、50代)

・和歌山県田辺市で、「膝」を「すねかぶ」と言われ、分からなかった。(精神科、40代)

・和歌山県紀中・紀南地方で、背中のことを「しち」「しちく」と言います。(一般内科、50代)

・徳島県海部郡地方では、膝のことを「つぶし」という。120の方言による表現が、徳島県海部郡医師会ウェブサイトに掲載されています。(一般内科、50代)

・徳島県西部地方では、膝のことを「かがま」と言う。(整形外科、50代)

・高知県の全域で、膝を「すね」と言う。(小児科、20代)

・熊本県熊本地方の「へき」。背中の一部を指すと思われるが、「へきが痛い」と言う患者に「背中が痛いのですか?」と聞き返すと、「背中じゃなか、へきが痛かつたい」と返されることが多い。(一般内科、50代)