2014年の就任以来、厚生労働大臣として医療政策の積極的な舵取りを続けてきた塩崎恭久氏。16年6月には、17年春のスタートが予定されていた新専門医制度にストップを掛ける一方、医師需給を巡っては従来の検討会とは別に、変化する医療ニーズに対応した医師の働き方とビジョンを議論する検討会を10月に立ち上げた。さらに12月には、毎年の薬価調査を柱とする薬価制度改革の基本方針も打ち出した。これら一連の施策の狙いはどこにあるのか、塩崎氏本人に聞いた。(2016年12月21日収録、写真撮影:花井 智子)

しおざき やすひさ氏○1950年愛媛県生まれ。75年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒、日本銀行入行。82年米ハーバード大学行政学大学院修了(行政学修士)。93年の衆議院議員選挙で初当選し国政へ。97年大蔵政務次官、2004年衆議院法務委員長、05年外務副大臣、06年内閣官房長官・拉致問題担当大臣を経て、14年から現職。
しおざき やすひさ氏○1950年愛媛県生まれ。75年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒、日本銀行入行。82年米ハーバード大学行政学大学院修了(行政学修士)。93年の衆議院議員選挙で初当選し国政へ。97年大蔵政務次官、2004年衆議院法務委員長、05年外務副大臣、06年内閣官房長官・拉致問題担当大臣を経て、14年から現職。

医師数を考えるには需要と供給両面からの検討を

まず初めに、医師の需給に関する基本的な認識を伺います。現状で医師は足りているとお考えですか。

 そこは両論あって、医師はトータルでは足りているが地域・診療科偏在が問題だという人と、そもそもトータルで足りていないという人がいます。ただし、それを考えるためには、どういう医療・介護ニーズが今あって、それは今後高齢化に伴ってどう変化していくのかという需要面と、少子化による医療・介護への期待や患者像の変化、ICT(情報通信技術)の発展という供給面、この両面から検討する必要があります。

 また、私としては、現在の我が国の医療は、「現場従事者の負担とモラール(士気)」に依存して成り立っているとの思いもあります。こうした点についての検討を、2016年10月に立ち上げた「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(以下、ビジョン検討会)で進めてもらっています。

 ビジョン検討会では、(1)地域が主導して、医療・介護と生活を支えること、(2)個人の能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方を実現すること、(3)高い生産性と付加価値を生み出すこと──という3つの原則の下、議論をしてもらっています。私としては何よりも、これからの医療を支える若い医師や女性医師が、プロフェッショナルとしての専門性の追求を行いつつ、将来に明るい展望の持てる仕組みとしていくことが必要だと考えています。

最近の若い医師の中には、コンサルティング企業に就職したりするなど、従来の枠を越えて活躍する人が増えている印象があります。

 今後は医療機関以外でも医師の方々が働く機会が広がることも考えられます。現在、各都道府県には二次医療圏ごとに医療提供体制の将来像を示す「地域医療構想」の策定をお願いしていますが、公衆衛生学的な観点から必要な医療資源を見積もって関係者と調整するのは、医師の資格がないと難しいのが現実です。けれど都道府県には、保健所長はいても地域医療構想の策定を担う人材は不足しています。

 また、米IBMで医療関連のAI(人工知能)の開発を担っているWatson Health事業部には40人の医師がいると聞いていますが、日本のIT企業にいる医師は大手でも産業医くらいでしょう。欧米の製薬企業に比べ、日本の製薬企業には医師が非常に少ないことも事実です。今後はそうした方面で、医師の需要が高まっていくのではないでしょうか。

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