憧れの連鎖を起こす人材とは?

半谷:アントレプレナーシップを持っていて、ぶれない志を持つ人材ですね。じゃあ志の原点は何かというと、私は自分のやりたいことだと思っています。その延長線上に社会的な価値を生むことを目指す。でも、自分のやりたいことからスタートする。なぜか。やりたいことだったら、何回失敗しても挑戦するんじゃないか。

 今、ビジネスの世界でもパラダイムが変わってきました。高度成長期やバブルの頃は、答えが分かっていたんです。でも、今は答えが見いだせない。手段が見通せない時に、自分がやりたいことだったらあきらめずに頑張る。でも自分がやりたいことじゃなかったら、手段が見通せないと途中でやめてしまう。だから、ハードルを乗り切るためには、自分がやりたいことがスタートのラインにないとダメなんです。

 志に向かってあきらめずにやり続けるには、思考停止せず、手段を変えながら目的に向かって小さくても実績を積み重ねていくことです。そこで謙虚さと誠実さを失わずに行けば、周りが協力してくれる。

それは半谷さんの半生でもありますね。

半谷:ある意味で、自分が失敗してきたプロセスなんです。

失敗から生まれた考え方なんですか。

半谷:一応、志はあるつもりなんです。そして仕組み作りや実績もあがった。周りからも信頼される。でも、持ち上げられたり、おだてられたりすると有頂天になり、自分1人でやったような気になる。自分に実力があるような錯覚ですね。それで不遜になり、謙虚さを忘れてしまい、せっかくいただいていた信頼を失う。私、何度も失敗しています、このプロセスで。

 掛け算なので、誠実さと謙虚さを失った瞬間にそこがゼロになるので、掛け算で全部ゼロになっちゃう。だから、どんな時でも謙虚で誠実にということは、自分自身に常に言い聞かせています。それは失敗したから、恥ずかしいぐらい失敗したから学んだことです。

謙虚なら、周りが巻き込まれたくなる

どういう失敗ですか。

半谷:例えば、ある組織をゼロから立ち上げて、社外との信頼関係も作って、経営して黒字にしたことがあったんです。だから、よく言えば「思い入れが強い」のですが、悪く言えば「私物」という思いがあったんじゃないかな。だから、(経営を退いても)非常勤役員になることを認めてもらったんですが、後輩たちはやりにくかったんですね。後輩たちのためにバックアップするのはいいんだけど、だんだん出てくるんですよ、これは俺がやったとか、俺の時はこうやっていたとか。「君たちは今、ちゃんと受け継いでいないんじゃないか」と。

 それで、非常勤役員を退任することになりました。後輩たちがやりにくい、と。ゼロから立ち上げた功績があるんだけど、さわやかさを失っていた。自慢げに行動していると見られたんです。今でも振り返ってみると、そう見られて当たり前だなと。

 今はそのことを消化しきって、こう話せるようになりましたけど、やっぱり当時を振り返ると恥ずかしい思いがしますから。だから、誠実さと謙虚さはこだわりますね。そこを超えられれば、神様がいるかと思うぐらい、いろいろな方たちが力を貸してくれるんですね。最近、学識者の方から教わりましたけど、ハーバードの授業で「計画的偶発性」という概念があるそうです。偶然なんだけど、計画的なのではないかと思うぐらいの出来事が起きると。それは縁によってもたらされる。

 要するに、いろいろなステークホルダーが協力してくれる。だから1つ1つは偶発的なんだけど、どうもこれは計画的に何か仕組まれていたように見えるぐらいで、必ずしも偶発とは言えないものになっていく。そういう「計画的偶発性」という概念は、おそらく私が言っている、周りが自ら巻き込まれたくなる状況だと思うんですよね。

福島県内から集まった高校生と1日議論する(写真:野口勝宏)
福島県内から集まった高校生と1日議論する(写真:野口勝宏)

 だから、やりたいことで、かつ社会的な価値につながることが目的じゃないと、誰も付いてきてくれない。それは、どれだけパッションがあるかどうかですね。いかに経営リテラシーがあっても、パッションがないとただの道具なので、あまり役立たないんですね。では、どうやったらパッションが出るのか、謎は多いのが現状です。

 「誤解されて悔しい」というパッションは、非常時のパッションだと思います。だから大震災や原発事故はあってはならないんだけど、そこに光の部分があるとすれば、実は非常時のパッションが生まれているんです。それに対して、憧れの連鎖は、平時であってもパッションに変わるメカニズムだと思っています。でも、ほかにも、もっと平時のパッションが見つかったらいいなと思っています。このパッションというのを、どうやったら生み出せるかというのは、これからも、もがきながら探っていきたいところですね。

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