社会性を追求せよ

道場を通じて、 経営者に最も伝えたかったことはなんでしょうか。

大山:会社は何のためにあるのか、ということです。全てが流されて地域が疲弊している。その時に会社は稼ぐことより先に、社会に対し何をするかを考えなくてはいけません。それは会社の士気を上げることにつながります。

 3・11の後には、野球の東北楽天ゴールデンイーグルスもサッカーのベガルタ仙台も、好成績を残した。目的を共有して突き進むと、気迫で周りを押しのけられる。企業経営も同じことです。

 道場は半年で12日間開催し、4大監査法人やマッキンゼー(・アンド・カンパニー)、日本政策投資銀行などから講師がきて、手取り足取り立ち上げ支援をする。どんなにお金を出したってここまでの体制を普通は作れない。自然と参加者の目線が上がり、使命感と「やればできる」という自信と強さが醸成される。

国策に魂を入れる

3県沿岸部の最大の問題は、人口減少と高齢化になりつつあります。他の地方も同様の問題を抱えています。

大山:衰退が緩やかだと、ぬるま湯に浸かったまま茹でガエルになってしまう恐れがあります。でも熱湯になったら飛び出すでしょう。生半可な危機意識では動かない。他の地方も危機意識を持って連帯し、新たな事業に取り組まなければいけません。

国は「グループ補助金」制度をつくり、複数の事業者で申請すると復興費の最大4分の3を支給しました。事業内容に関係なく公金を直接投じるという意味では破格の扱いでしたが、補助金を受けても息切れ倒産する企業が出始めています。

大山:私は復興推進委員会の委員も務めましたが、グループ補助金は補助金を受けられる企業と受けられない企業の差が出て批判が出ないよう、グループという枠組みをはめただけ。グループで新しい取り組みを促すものではなく、多くは復旧費に使われるだけでした。我々はこうしたシステムに魂を入れたかったんです。これは国ではできなかったことでしょう。

大山社長が手にしている本は「ユーザーイン経営」。自身の経営哲学を記した本を社内向けに出版した(写真:村上昭浩)

岩手、宮城の沿岸部の主要産業だった漁業は衰退が止まりません。

大山:繰り返しますが、ピンチはチャンスに変えられます。獲れる魚が減ったなら、ある程度は単価も上がります。その間に、生産、卸、加工の複雑な流通の仕組みを見直せばいい。今まではぬるま湯の中でしがらみがありました。今ならおかしいことはおかしいと見直せるはずです。アマゾン(・ドット・コム)や楽天のようなEC(電子商取引)を活用してみてもいい。生産、流通、加工を一体に取りまとめてもいい。

 アイリスが取り組んできたのは「ユーザーイン」です。商品の付加価値を決めているのは流通ではなくてエンドユーザー。だからマーケットインではなく、ユーザーインで考える。徹底的にユーザーの「面倒臭い」を排除した商品を考える。魚でいえば一番面倒なのは小骨でしょう。小骨を全て取って家庭ですぐオーブンで食べられるような商品を企画する。加工場で消費者の代わりに面倒臭いことをやればいい。

本来、ユーザーインはすべての企業にとって基本の考え方のはずです。

大山:それが近代化、効率化の中で薄まっていると思います。製販分離が進んで、ユーザーの声が企業に届きにくくなった。経済が右肩上がりの時代なら、効率化でうまく回ります。しかし、熱湯の時代になったらそれではダメです。

 ユーザーインならば、付加価値を取れる商品がつくれます。今は復興事業に人手が取られて求人倍率も上がっていますが、あと3年で復興期間も終わる。その時どうするか。利益を取れる企業じゃなければ給料だって払えない。