宇宙の専門家も登用すべき

宇宙、サイバー空間など新たな領域への対処が必要になっています。この点をどう見ていますか。

小谷:やはり、人と予算をもっと投入すべきでしょう。自衛隊でサイバー防衛に当たる要員は200人程度。これでは足りません。キャッチアップする必要があります。

 宇宙については、状況監視や宇宙ゴミの監視、宇宙からの海洋監視が進められています。これに加えて、ミサイル防衛システムで利用するセンサーの運用などでも宇宙を活用する必要があります。

 また中国やロシアが人工衛星を破壊する技術の開発を進めています。主たる目標は米軍の衛星でしょうが、日本の衛星も対象とならないとはいえません。これを守る仕組みを考えていく必要があるでしょう。

「衛星を守る」というのは、具体的にはどういう措置を取るのでしょう。

小谷:まずは監視です。衛星が攻撃されたとき、誰に責任を問うのかの情報が必要です。

 また衛星そのものが破壊されなくても、妨害電波などによって通信が妨害される可能性があります。これに対処する必要もありますね。

 防衛大綱の改訂を議論すべく政府が8月、有識者懇談会を開きました。ここに宇宙の専門家が入らなかったのは残念なことだったと思います。

哨戒機P-1の在庫が東南アジアにあれば

現行の大綱が会議決定された後、防備装備庁が2015年10月に設置されました。防衛装備についての考えを聞かせてください。

小谷:FMS(対外有償軍事援助)*10が問題視されています。これの運用を改善すると盛り込むのがよいと思います。価格やリードタイムなどについて、米国に言うべきことは言えるようにする。

*10:Foreign Military Salesの略。米国が採用する武器輸出管理制度の1つで、武器輸出管理法に基づく。購入する国の政府と米国政府が直接契約を結ぶ。米国が主導権を取るのが特徴。価格や納期は米政府が決める、米国の都合で納期が遅れることも多い。最新の装備品などは、FMSによる取引しか認めない場合がほとんど

その関連で、F-X(次期戦闘機)の開発はどうするべきと考えますか。現行の支援戦闘機「F-2」の後継として、2030年をめどに導入する予定。日本による独自開発、外国との共同開発、外国からの輸入の3つの選択肢が想定されています。

小谷:共同開発になるのでしょう。日本の技術をなるべく多く取り入れるようにしたいですね。中期防には「日本の航空産業の将来を見据えた共同開発を促進」くらいは書いてもよいと思います。

もう一つ関連の質問です。条件がそろえば、日本が開発した防衛装備を海外移転できるようになりました。これは推進すべきでしょうか。

小谷:できるなら、やるべきと思います。日本の防衛産業の基盤維持に貢献するだけでなく、自衛隊が国際貢献する際にも役立ちます。

 例えば純日本製の哨戒機P-1を東南アジアのA国に輸出できたとしましょう。その国は部品の一部を在庫として保有します。すると、海上自衛隊が何かの任務でP-1を東南アジアに派遣し、故障が発生した時、日本に戻らなくてもA国で修理することができる。米軍が運用する哨戒機P-8は米ボーイングの737がベースになっているため、ボーイングのサプライチェーンを利用できます。この差を補える。

在韓米軍の撤収を視野に入れる

6月12日に開かれた米朝首脳会談でドナルド・トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長が完全な非核化で合意しました。けれども、北朝鮮は非核化を進めていません。2017年4月と同様に、米軍が北朝鮮を武力攻撃する話が再燃しないとも限らない状況です。

小谷:対北朝鮮では、先ほどお話ししたようにミサイル防衛システムの機能を高めていくことでしょう。

 昨年、危機感が高まった際に、自衛隊の中でだいぶ頭の体操ができました。米軍の戦略爆撃機B-52を航空自衛隊の戦闘機F-15がサポートする共同訓練なども実施されています。朝鮮半島に暮らす邦人をいかに保護するかの問題が残っていますが、論点は整理されています。

 実は私は、北朝鮮が非核化を進めなくても、昨年のような緊張状態に戻ることはないと考えています。北朝鮮の狙いは半島をめぐる緊張を緩和し、米軍のプレゼンスを低下させ、米軍が持つ核の傘が韓国に及ばないようにすること。これが彼らの言う「朝鮮半島の非核化」です。よって、核実験やミサイル実験を再び実施することはないでしょう。そんなことしなくても、事実上の核保有国として国際社会に対峙できます。実験をしなければ、米国が武力行使に踏み切る口実がありません。

 つまり北朝鮮は緊張を高めることのないまま核保有国として存在し続ける。このことが北東アジアの軍事バランスを変えかねず、日本に影響を及ぼす可能性があります。例えば、中国は、難民の流入を恐れて人民解放軍を中朝国境に配備して有事に備えています。中朝国境の緊張が緩めば、中国は台湾や尖閣諸島により圧力をかけてくるかもしれません。

 「在韓米軍はなぜ必要なのか」との議論が高まることも考えられます。そうなれば日本は、自衛隊はどうあるべきか、在日米軍といかに連携するかを考える必要が生じます。防衛大綱に「朝鮮半島における米軍のプレゼンスの変化に対処できるようにしておく」と書き入れておくべきかもしれません。数年内に起きてもおかしくないことですから。

在韓米軍は、日本の防衛にとってどのような役割を果たしているのでしょうか。兵力は2.3万人とさほど大きな部隊ではありません*11

*11:北朝鮮軍の兵力は約119万人。韓国軍は63万人

小谷:在韓米軍の大半は陸軍です。これは東アジアおよび西太平洋における米軍の唯一の陸上戦力です。先ほど述べたマルチドメインバトル構想は米陸軍が主導してきた構想です。在韓米陸軍は、北朝鮮はもちろん中国に対するけん制にもなっており、日本の防衛にも間接的に貢献しています。在日米軍に作戦を展開可能な陸軍はゼロです。

 戦闘機の数は多くはありませんが*12、即応力は高い。日本にある米空軍基地からではやはり1~2時間かかってしまいます。加えて、日本と韓国に米空軍が分散していることが大きい。北朝鮮から見れば、在韓米軍と在日米軍の両方に戦力を割かなければなりません。

*12:F-16が60機程度

 また、在韓米軍は今後、東アジアをローテーションすることになっています。在韓米軍の基地を6月、ソウルからその南方の平沢市に移動したのはこれを示唆する措置です。朝鮮半島に張り付いているわけでない、ということですね。この部隊が在日米軍や自衛隊と連携するようになることもあるでしょう。